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空隙と微睡み

いろいろやりたいことがあるのに、一向に手が付けられない時ってありますよね。

こんにちは、珠々です。
今回はいつより早く更新できたかなーなんて思ってます。

もう、本誌の蓮が暗くて!シリアスすぎて!
いや、スキビは面白いしキョーコも社さんも楽しいんですが!
いかんせん蓮が暗い。

そこで愉快な軽ーい感じのお話がしたかったんです。
カインになってから悩みまくりな蓮ですが、もうちょっと気楽に行ったら良いんじゃないかと。
悩んでるのは同じなんですがね。

仕上がってみれば、うちの短編の「不器用な悪戯」の蓮バージョンみたいになったかも。

そして最近やたら誰かが眠ってるのは、私が眠いからとか、多分そんなことはないはずです。←

では、続きよりどうぞ。









なんて拷問だと、始めはそう思った。







「おはようございまーす!」

現場に最上さんの元気な声が響く。
それだけで心が弾み、頬が緩んでしまう。
自覚はある。
どうにも反射となっている自分の単純さは、コントロールのしようもなかった。
そして、俺の横でニヤニヤと喜色満面な社さんにからかわれるのも、最早恒例行事になりつつある。

「さっきまで兄妹だったんだろ?」
「そうですよ」

そう、現在ヒール兄妹としても生活しながら、お互い「敦賀蓮」「京子」としての仕事をこなさなければいけなかった。演じることが当たり前になった俺達の生活軸は自然、手配されたホテルになる。
寝起きを共にして、仕事まで同じ。
ここまで馴染んでしまった最上さんとの生活は、広すぎる部屋に1人で暮らすよりも随分と落ち着けるものとなった。
いずれ訪れる別れだと分かっていても、その喪失感は果たしてどれ程のものだろう。
手を伸ばせば届く距離にある温もりが、無くなる。

……今は、考えるべきじゃない。

思考を強制終了して、目の前まで来てくれた最上さんに意識を移す。

「おはようございます、敦賀さん、社さん」
「おはようキョーコちゃん」
「おはよう」

こうして挨拶を交わすのは今日で二度目だ。最上さんは少し照れたように顔を崩して微笑む。

「なんだか変な感じですね」
「そうだね」

俺もつられて微笑む。二人にしか分からない、暗号めいた空気のようだった。
「セツ」ではない最上さんも、やっぱり可愛らしいと改めて思う。

「つ、敦賀さん?」

ジッと見つめ過ぎていた俺に、少し不安そうな顔で伺う最上さん。

「……最上さん、疲れてる?」

凝視していた言い訳じゃなく、少しばかり最上さんの顔色が悪い気がしたからだ。
思わず、その頬に手を伸ばしかけて。

「あれ、ほんとだ。キョーコちゃん顔色悪いよ」

社さんの同意の言葉で我に返った。

「敦賀蓮」で最上さんの頬に気安く触れるなんて、して良いはずがないだろう。

危ない……。

社長に「撫でるだけなら」と言われてから、接触のレベルが下がってないか?

「き、昨日はちょっと寝付きが悪くて……少し寝不足なだけですよ。大丈夫です」

最上さんはどうしてか慌てて手を降り「では、皆さんにもご挨拶してきますね」と、一礼して立ち去ってしまった。
和やかな雰囲気が一気に消え、ふいに訪れる沈黙。
それを裂くように、口を開いたのは社さんだった。

「蓮、お前……キョーコちゃんが寝不足になるようなこと、してないだろうな?」
「社さんの想像するようなことは一切ありませんよ」

ある程度予想は出来た質問だったが、何もないとキッパリと言い切れるのも、若干複雑だった。




「カーット!」
監督の声がセット内に響く。
それを合図に、ざわざわと慌ただしく動き出す現場。
今回の撮影は、番組改編の時期に組まれるスペシャルドラマの撮影だった。

「休憩入りまーす」

スタッフが休憩を告げ、全員が一斉に息をつく。
俺も撮影モードをオフにしてセットを降り、寝不足だと言っていた最上さんを探そうと視線を巡らせた。ドラマの撮影は待ち時間が長い。自分の出演シーンまで数時間空くこともザラだ。その間、各々自由に待機する。
楽屋に籠ったり、台本を読んだり、仮眠することもある。
彼女の場合、いつもなら、勉強になるからと共演者の演技を見学しているはずだが、今はその姿を確認出来ない。
それならと、ケータリングが用意された辺りに足を進めると、困惑しているようなスタッフの声が耳に届いた。

「なぁ、起こしたほうが良いかな?」
「楽屋に連れてってやろうか」

数人の男性スタッフが一点に見つめる先。
壁際に備えられた椅子に体を預け、ウトウトと眠ってしまっている最上さんがいた。
手にはしっかり台本を持って、頭はコトンと壁にもたれかけさせている。普段は見事なバランスで素晴らしい姿勢の持ち主だが、意識のない今はいつ倒れるか分からない。
俺は迷わず目的の場所へ向かい、会話をしていたスタッフへ話しかける。

「彼女、疲れてるようなので俺が連れて行きますよ」

異論も返答も聞く気はない。
すぐさま最上さんの側まで歩み寄り、彼女を抱えるため体勢を傾ける。
聞こえてくる、規則正しい寝息。深い眠りに入っているのか、多少動かしても起きそうになかった。

こんな無防備な姿、他の人間に見せて……。

ふと、涌き上る悪戯心。
俺は最上さんの耳元に唇を寄せて、彼女にしか聞こえないよう、いつも一緒にいるもう一人の俺で囁く。

「……セツ、起きろ」

微睡みに入り込むように、愛の言葉の代わりに、妹の名を。

「……ぅん……にぃ…さん…?」

覚醒していない最上さんは、鈍いながら素直にセツとして反応してくれた。
夢現の語らいは、恐らく記憶にも残らないだろう。
それを良い事に、俺は理不尽な我が儘を伝える。

「俺以外のヤツに寝顔を見せるな」

独占?
そうかもしれない。
でも、こればかりはどうしようもない。
紛れも無く俺自身の感情で、突き動かされるように最上さんを抱える。
まだ成熟していない痩躯はふわりと簡単に浮き、その軽さに少し驚きながらも、楽屋へと運ぼうとしたその時。
最上さんのスラリとした細い腕が俺の首に回され、そして吐息と共に溢れる台詞。

「ん……もぅ……だいすき……」

それだけ言うと、最上さんはまたコトリと俺にもたれて意識を手放してしまった。

本当に。
どうしてくれよう。

俺は驚いているスタッフを横目に、愛おしい娘を抱き締め静かにその場を離れた。








最初は、なんて拷問だと思った。
社長へ恨み言の一つや二つや三つや四つ……ありもした。



ただ、この状況を。


せいぜい楽しませてもらっても良いのかもしれない。




最後の最上さんの言葉は、セツとしてのものだと分かってはいても。


眠り姫が起きる前に、自分でも可笑しな程狼狽えた心を落ち着かせよう。





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