輪ニノゾム 4

なんだか10月は忙しかったです。
仕事もですが、何かしらの行事で自分の時間がほとんどとれず・・・。
下の子が骨折してしまい、それでバタバタもしてましたね。

相変わらずノロノロ操業で申し訳ないのですが、見守ってくだされば幸いです!

では、続きよりどうぞ。









社は大変混乱していた。
マネージメントする立場から、常に不測の自体を想定し対処する自信はあるし、実際そうしてきた。
担当俳優をサポートするべく、感情を包み隠すことだって必須スキルだった。
が。
今のこの状況で、それは難しかった。

「キョーコちゃん…なんでウチに!?」

しかもエプロン姿で。

「あ。えーと、そうですよね。じゃあ・・・『当モーニングサービスをご利用頂きありがとうございます』」

キョーコはそう言うと、朝に相応しい素晴らしい営業スマイルで、いつも通りの綺麗なお辞儀をする。
ただし、告げられた台詞をそのまま受け入れる訳にはいかなかった。

「ま、待って待って。モーニングサービス?」
「そうです。昨夜、社さんが直接依頼されましたよね?」
「……した……かも」

社は頭を抱え、よくよく思い出してみると、そういえばそんなサービスを手配した記憶があった。

昨夜のこと。
運の悪いことに目覚まし時計を落とし、どこをぶつけたのか時計の針が午前2時を過ぎたまま動かなくなってしまった。
昨今であれば「携帯のアラームが目覚ましです」という人も多いだろうが、厄介な体質である社には、それは些か難しかった。
電化製品用のいつもの手袋を寝起き一番に嵌めるのは中々に億劫であり、尚且つ回らない頭ではそれを失念することも仕方がない。
つまり、過去携帯のアラームで目覚め、得意の10秒クラッシュで無惨な結果になってしまったことのある経験から、目覚まし時計はアナログで、が常だった。
しかし壊れた時計。
どうしたものかと思案していると、ふと昼間に聞いたある噂を思い出した。
「満足度No.1のモーニングサービス」とやらが存在していると。
聞けば、寝坊、遅刻常習犯の芸能人が軒並み定刻厳守になったのだとか。
噂には尾ヒレが付いて回るものだが、物は試しと急遽連絡先を調べ申し込んだ次第だった。

「そうか……噂のサービスの正体はキョーコちゃんだったんだね」

きっとただ起こすだけではなく、ご飯の支度や部屋の片付け、果ては出掛けの準備までもしてくれそうなプラスアルファな仕事ぶりが目に浮かんだ。

「噂の?」

キョトンと小首を傾げて、大きな瞳を
揺らす様は、社から見ても大変に可愛らしいと思ってしまう。

(これで無自覚なんだから、蓮も苦労するよなー……って、そういえば)

「キョーコちゃん、この事、蓮は知ってるの?」

ギクリと揺れる細い肩。

「……もしかして、秘密にしてる?」
「それは、その……」

歯切れの悪いキョーコの態度から、答えは言わずもがなだろう。
それを見て社は、思わず深く溜め息をついてしまった。

「はぁー……キョーコちゃん。ダブルワークは確かに禁止ではないけど、こんな朝早くに他人の世話してるだなんて、俺が彼氏だったら良い気はしないよ」

社がそう言うと、途端にシュンと項垂れて「そうですよね……」と小さく呟く。と、言うことは、キョーコの中でも後ろめたい気持ちはあるのだろう。だからこそ蓮には秘密にしている。それをおしてでも、やり遂げたいことがあるのかもしれないと推測は出来るが、だからと言って見過ごすわけにはいかなかった。

「それ以前に、何かあったらどうするの?」
「何か…?」
「えーと。つまり、キョーコちゃんは女の子で、その…男に無理矢理迫られでもしたら対処出来ないこともあると思うんだ」
「私をどうにかしようだなんて物好きいませんよ」

社がオブラートに包みながら男の危険性を説こうとするも、キョーコは胸を張って自信満々に言い切る。
蓮の立場はどうなるんだろうと、社は心で涙を拭った。
だが、ここで引くわけにはいかない。
社は人の良い笑顔を作り、攻勢に打って出る。

「キョーコちゃん。手、出して」
「?はい…こうですか?」

キョーコは脈絡のない突然の指示に、疑問符を浮かべながらも素直に応じる。

「ちょっとごめんね」
「ひゃあっ!?」

社はそう言うと、華奢な腕をやや強めに引っ張り、今まで自分が寝ていたベッドへキョーコを横たえる。
とさりと軽い音が耳に届き、なす術なく倒れされた警戒心のない少女は驚いた顔のまま固まっている。
社はそれを見て苦笑し、キョーコの傍、ベッドの縁に腰掛け諭すように話し出す。

「こんな風にされたら逃げられないってことを覚えた方が良いよ」

残念ながら、世の中善人ばかりではないのだから。妹のような存在であるキョーコに、自分自身を大切にしてほしいと、切に願って。

そして。
一時の、間。

「分かって…ます…」

ベッドの上で、微かな衣擦れと共に小さく呟かれた真剣な声。
同時に、ハラリと、幾筋かの涙が目尻から顔の横を通り流れる。 ハラハラときらめくソレは、社の思考を停止させるには効果絶大だった。

「きょ、キョーコちゃん!?ご、ごめんっ…いきなりこんなことされたら驚くよね!?」
「違うんです……私……」
「あ、どこか痛い?救急箱あったかなー!?」

『慌てふためく』を見事に体現した社は、急いで立ち上がりキョーコの涙を止めるべく動こうとする。
が、その時。
クスクスと柔らかな笑い声が聞こえてきた。

「……キョーコちゃん?」
「ふふ、すみません社さん。そんなに慌てちゃうと思わなかったから」
「ってことは、嘘泣き?」

ニコリと、再び綺麗に微笑むキョーコ。
涙は女優の商売道具ということだろう。
冷や汗を流しながらも脱力して聞いた社は、「参った」と降参するしかなかった。

「社さん、ご心配ありがとうございます。でも、モーニングサービスの方は今日が最後なので安心してください。元々、こちらは臨時で少しの間だけって話だったので」
「そうなんだ?」
「はい。私、どうしても欲しいものがあって……」
「蓮には言えないもの?」

二人の関係を知っているなら誰もが言うであろう言葉。きっと、キョーコの望むことなら可能な限り叶えようとする男が彼氏なのだから。いや、もしかしたら不可能も可能にしてしまいそうだ。
キョーコもある程度は聞かれる想定をしていたのか、苦笑しながら落ち着いて答える。

「私自身が頑張らないと意味がないんです」
「そっか」
「じゃあ、私はもう行きますけど、朝御飯しっかり食べてくださいね」

エプロンを外しながら、用意した朝食の行く末を社に託すキョーコ。

「はは、ありがとう」

「では、失礼します」と、玄関の扉を閉める間際にもペコリとお辞儀をして、社の普段の朝には考えられない風を巻き起こした張本人は去っていった。





キョーコが外に出ると、既に朝日がサンサンと降り注いでいた。
清々しい空気をいっぱいに吸い込み、一歩を踏み出す。

「よし。次の人で最後ね」

キョーコには、もう一仕事待っていた。




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