輪ニノゾム 2

お久しぶりです。
またしても、ものっ凄い間があいてしまいました。

実は子供の入院や保育園の行事やらでまとまった時間があまり取れなかったりしたのです。
いや、それを差し引いても遅いんですが。

先日某様とお話して、マイペースで楽しく出来たら良いんじゃないかな?という結論に至りました。
マイペース、得意です。(怒られそうだ)
のんびり頑張っていきたいと思います。









「で?」
「え?」
「『え?』じゃないわよ。どうしてバイトなんてしようと思ったのよ。下宿先でも働かせてもらってんでしょ?」
「あーそれが・・・。私が忙しくなってきたのを気にしてくれて、店を手伝うより休めって大将が。折角の気持ちを無碍に出来なくて•••」
「ふーん。それであの指輪買うお金が足りないのね」
「へ?」
「買ってもらえば良いじゃない、彼氏に」
「ななな!?なにを言ってるのモー子さん!?」
「だから、アンタが可愛い顔で『欲しいです』なんて言おうものなら惜しげもなくプレゼントしてくれそうじゃない?」
「それはそうかもしれないけど・・・じゃなくてっ!わ、私、お付き合いの話・・・」
「聞いてないわね。あぁあ~自称親友が聞いて呆れるわ。大事な話の一つもしてくれないのに」
「ぅ~~~ごめんなさぁぁいぃ~~~!話そうとしたんだけど、タイミングがぁぁぁぁ」
「はいはい。良いわよ別に。改まって言われる方がいたたまれないから」
「モー子さぁぁん!親友解消なんて言わないでね!?ねっ!?」
「えぇい鬱陶しい!これ以上煩くしたら本当に縁切るわよ!?」
「ひぃっっっ!」
「なぁに?」
「う、ウルサクシマセン。でもモー子さん、その、なんで知ってたの?」
「・・・バレてないと思ってる方がオカシイわよ。見てれば誰だって分かるわ」
「そっかぁ。私、そんな分かりやすいかな?」
「アンタよりもアッチがね」
「?」
「知らぬは当人ばかりってわけね」


そうかなー・・・?


私はね、モー子さん。
敦賀さんへの気持ちを形にしたいのも確かなんだけど。
私が望んで一歩踏み出すことで、自分の、臆病で弱い部分を、捨ててしまえるんじゃないかって。
変われるんじゃないかって、そう思ってるの。

この幸せがいつか崩れるものだと、どこかで諦めて怯えないように。




(あ、さ・・・?)

遮光カーテンから僅かに洩れた朝日が瞼の奥に届き、キョーコはぼんやりと意識を覚醒させる。
普段とは明らかに柔らかさの違う寝心地で、自分がどこにいるのか分からなくなるのも一瞬のこと。

(そうだ・・・結局泊まったんだっけ)

言わずもがな、蓮のマンションのゲストルームに通されていた。家主が使用しないにも関わらず、手入れの行き届いた部屋に、キングサイズまではいかずともクイーンサイズはあるだろうベッド。
始めこそ緊張で寝返りさえも気を遣っていたが、最近ではこの部屋の空気も段々と肌に馴染んできたように思う。
本当に心許せる相手、場所が出来たのは、キョーコにとってこれ以上ない幸せだった。
自然と零れる笑みを湛え、朝の支度をと体に動く命令をかける。
だが、それが叶うことはなかった。

(??)

不自然な圧迫を感じ、ゆっくり瞼を開けると、自分のものではない逞しい腕がキョーコの体を拘束していた。

(!?)

背中で感じる存在。
これが正体不明の相手だったならキョーコはもっと狼狽えただろう。だが、誰であるかは明確で。
どういうわけか、就寝時には別々の部屋だったはずの蓮が、いつの間にかキョーコのベッドに侵入し、そしてその愛しい娘を逃がさないようガッシリと抱き締めたまま気持ちよさそうに眠っていた。

(空気・・・空気になるのよキョーコっ)

キョーコの気持ちの中では最大限に気配を殺し、息すら止めて僅かに身じろぎしながら、超多忙なトップ俳優を起こさないよう最新の注意を払ってその腕から抜け出す。
なんとか脱出に成功したキョーコは、起こしてしまっていないかを確かめるため、改めて自分を拘束していた人物へ向き直る。
小さな寝息を立ててクタリと動かない所を見ると、どうやら起こしてはいないらしい。

(寝てても、綺麗な人)

長い睫毛、整った鼻梁、男性にしては滑らかな肌。
世の女性からは熱の籠った溜息を、男性からは羨望の眼差しを一身に受ける麗人の無防備すぎる寝顔に魅入っていた。

(そうだ・・・この際サイズを)

蓮のパーツ毎のサイズも目測の上で把握はしていたキョーコだが、自分の目的のため蓮の手にそっと触れ、ゆっくりとなぞる。
大きな大きな温かい手。節ばった指を、きゅ。と握っていき、互い違いに合わせられた指を絡めるように。

にぎにぎ。
にぎにぎ。

ここぞとばかりに感触とサイズを記憶しておこうと集中し過ぎて、周囲への意識が散漫になっていたキョーコ。
そこへ、お約束のように掛けられる声。

「随分可愛い起こし方だね」

思いがけない声に、キョーコはビクリと肩を震わせて、蓮の手から急いで自らの手を退ける。

「つ、つるがさ・・・」
「おはよう」

その神々しい笑顔は、朝日よりも眩しくキョーコに降り注ぎ、溶けるどころか灰になりそうだった。

「おはようございます・・・起きてたんですか?」
「あんな可愛いことされたら起きない男はいないよ」

臆面もなく恥ずかしいことを言ってのけ、しかもそれがシックリきてしまう蓮に何度赤面させられたか分からない。
いつまで経っても慣れることはなく、その度に火照った頬を隠すのに必死だった。

「それは・・・すみません、貴重な睡眠の邪魔をしてしまって」
「俺にとって君と向き合うのも貴重な時間なんだから、むしろ嬉しいくらいだよ」

また全力で逃げたくなったキョーコだが、朝っぱらから男性の手を思いの限り触り尽くすなんて奇異な行動の理由を問われないだけ良かったと思うことにした。

「じゃあ、私はもう起きますけど、敦賀さんはまだ寝ててくださいね」
「こんなに早く?」

確かに、陽が昇ってきたとはいえ、1日の活動を開始するには些か早い時間。

「はい。今日は学校に行くので、少し早めに出ますね」

これでも現役女子高生であるキョーコ。社長の好意で通えることになった学生生活は、たとえ病気自慢のサラリーマンが如き出席不良な芸能人ばかりに囲まれていても、疎かにはしたくなかった。
その時、キョーコの顔を見ながら、何かを思案していた蓮がポツリと呟く。

「・・・送ろうか?」

一時の、間。

「・・・結構です」

突拍子もない申し出に、なんとか絞り出した答えだった。更に何か言い募りそうな蓮の気配を察し、キョーコは一気に捲し立てる。

「良いですか敦賀さん?仮にも私が通わせて頂いてる学校は芸能界で生きてる厄介な人が多いんです。そんな中敦賀さんが一緒だなんて、どんな恐ろしいことになるか!腹ペコライオンの群れに小鹿を放り込むような真似出来ません」
「俺、小鹿?」
「そうです!」
「ライオンだって獲って喰う自信はあるけど」
「・・・大変獰猛な鹿でいらっしゃって・・・」

そうだった。この人はこういう人だと、改めて納得してしまった。蓮はというと、そんなキョーコの心境を見透かしたように面白がっていた。

「それに、俺が一緒に行くことで牽制になるんだったら願ったり叶ったりなんだけどな」
「牽制?」

何を相手にしての牽制なのか。キョーコの疑問に対して、蓮は栗色の髪をすくように撫でて笑顔を返す。
言葉にすることはなく、ただ、柔らかい虹彩が全てを物語っているようだった。

「でもまぁいつか、ね。今日のところは大人しくしておきましょう」

そうして蓮は体を起こして、優雅な動作でベッドから降りる。
さらに振り返り、キョーコを起き上がらせるよう手を差し出した。

「あれ、敦賀さんももう起きるんですか?」

まだゆっくりするものだと思っていた蓮の起床に、慌てて伸ばされた手に自分のソレを重ねる。

「起き抜けのコーヒーはいかがですかお嬢さん?」

煌めく1日の始まりだった。

「是非、いただきます」





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