月に宵

本誌発売の前にあげたかったのに、一部データの喪失というハプニングで間に合いませんでした。

えっと、セツのお話になります。

多分無いだろうと思いながらも、都合によりホテルにベランダを取り付けてみました。
なのでその辺はスルーでお願いします!


あと、文中に出てくる行為は二十歳になってからお願いします (ぇ)






早く、大人になりたい。

そう、例えば。

渦巻く感情を笑顔で覆えるような。

艶のある含みに、余裕然と返せるような。

コドモだからと、触れることすらされないモヤモヤに苛まれないような。

そんな、オトナにーーーーー。





すっかり暗くなった空。天頂近くには欠けた月が悠々と存在していた。

「さむっ・・・」

随分暑くなってきたとはいえ、夜中のこの時間、キャミソールとショートパンツという薄手のルームウエアでベランダに吹き荒ぶ風に当たっていれば、体が冷えてくるのも当然かなと他人事のように考える。
馴染まざるを得ない勝手知ったるホテルにて、兄妹ごっこの真っ最中。
私は1人、ベランダにいた。
ツと空を見上げる。
星は見えない。
月の放つ輝きに負けてしまったのか、むしろ眼下の街灯りのほうが余程星らしいと。
眠らない喧騒を包む光をぼんやり眺める。

頭上に月、足元に星。

フワリと、妙な浮遊感から自分の居場所の覚束なさを感じ、再び視線を上に向ければ、変わらない顔をした未完成の月。

「アナタも、早く満月になりたい?」

無意識に呟かれた言葉は、風に流され消えた。

「なんて・・・本当の形は元々まん丸なのにね?」

一方からしか見えない姿を、目に見える形だけをそのものだと思い込んでしまうのは、なんて愚かなことなんだろう。
自重気味に呟いて、手に力を込めれば、カサリとした感触に忘れていたことを思い出す。

「兄さんの煙草・・・」

もう何本かしか残っていないソレ。
ベッドでシーツにくるまっている敦賀さんに気付かれないよう、そっと持って来てしまった。
どうしてかと聞かれれば、ちゃんとした答えはなくて。ただ、この小さな嗜好品を手にすることで背伸びをしたかったのかもしれない。
もちろん吸ってみたいなんて思ったことはないし、煙には迷惑だとしか言えないけど。

それでも。

一本、ぎこちなく取り出して咥えてみる。
敦賀さんはどうしてたっけ・・・思い出しながら、ライターに火を灯し、炎の揺らめきを煙草の先に近付ける。
じりじりと表面が黒く焦げた所で、気持ち吸い込んで・・・

ゆっくり。

合ってるかな?と思った途端に、喉の奥に滲みるような違和感。

「~~~~~~~っっっ!」

あまりの苦しさに、思いきり咳き込んでしまった。

「けほっ・・・にがぁいぃぃ・・・」

こんなの・・・絶対に体に悪い・・・。
役のカラーがあるから完全に止めるのは無理でも、せめて本数減らしてもらわなきゃ。

そう決意して、もう二度と吸うつもりのない煙草を消すべく部屋に戻ろうとしたその時、頭上から降ってくる声があった。

「・・・何してる」
「ひゃぁ!?」

誰か、なんて考えなくてもわかる相手。自分以外の気配を感じなかったため、思わず声が裏返る。
振り返ると、夜の闇に同化するような・・・いえ、闇を従えているような雰囲気の敦賀さんが立っていた。

「に、兄さん!?寝てたんじゃ・・・」

敦賀さんはちらりと私の手にあるものを一瞥すると、眉をひそめて窘めるような視線を向けてきた。

「お前にはまだ早いだろう」

また、コドモ扱い。

「じゃあ兄さんは何歳から吸ってたの?」

無茶苦茶な返しだって自覚はある。未成年の私が吸っていいものじゃないし、それに対して敦賀さんが怒るのも当然なのに、私の中に燻る何かが酷く居心地悪く反抗させていた。

「俺のことはどうでもいい」
「よくない!」
「・・・セツ?」

心が、焦げる。

「・・・子供扱い・・・しないで・・・」

俯き零れ落ちた言葉は、果たしてセツとしてなのか、「最上キョーコ」としてなのか。
私にもよく分からなかった。

・・・・・。

風の音がやけに煩く聞こえるほど、ピタリと止んだ会話。

オカシイ・・・。
カインとしてなら、妹の機嫌を直すための言葉があっても良いし、じゃれあいの名の下生意気言った口を摘んでくれても良いのに。
全く以て、この後の敦賀さんの動きを伺い知ることが出来ない。
それが怖くなって、おずおずと顔を上げて表情を伺ってみたけど、時折見せる無表情の敦賀さんと目が合った途端、はぁぁぁと心底ダメ息を吐かれてしまった。

なんで!?

「・・・人の気も知らないで」
「?」

そう一人ごちた敦賀さん。何かワタクシ粗相を致しましたかと発言の真意を伺おうとしたのだけれど、カインとしてのものではない、優しい眼差しを向けられ、私は何も聞けなくなってしまった。

つ、つるがさん・・・?

そのまま思考まで停止していたようで・・・気付くと、敦賀さんの温かく大きな手で頭を撫でられていた。
ゆるゆると、伝えられる安心感に包まれ目を閉じる。

「セツ」

放っておいたら、いつまでもされるがままだったかもしれない。名前を呼ばれることで、私はなんとかセツカの仮面を被り直し、目を開けて正面に向き直ることが出来た。
敦賀さんの、今度はカインとしての真剣な眼とぶつかる。

「俺の側に、お前以外は要らない。・・・それじゃ不満か?」

一言。
たったそれだけで、私の心は魔法にかけられたように軽くなる。
なんて、単純。
同時に、ウジウジしていた自分の馬鹿さ加減に笑ってしまった。
敦賀さんが怪訝な顔をするけど、私は全てを誤魔化すように、ニコリと目の前の人に相対した。

「これ、あげる」

ほとんど吸っていないのに、半分程になってしまった煙草を無理やり渡す。
敦賀さんは一瞬躊躇ったものの、溜め息とともに受け取ってくれた。

「兄さん。煙草・・・あんまり吸わないでね?」
「渡しておいて・・・」
「だって、煙草は狙撃の目印になるんですって」

ヒットマンが狙われるなんて、本末転倒でしょう?と、どこかで聞きかじった情報を添える。
ところが、敦賀さんは人の悪い笑みを浮かべて暗い夜空に紫煙をくゆらせた。

「なんだ、尚更止める理由がなくなったな」
「どうして?」


「的にされるのは俺だけで良い」


さも当然の様に言ってのける。
物騒極まりない台詞なのに、楽しそうな色を含めて、私の髪を掬う。

あぁもう、この人には適わない。

「やめられなくなっても知らないからねっ」

私は敦賀さんの顔も直視しないまま、負け惜しみのような言葉を残して部屋に入ることにした。

火照った顔は、きっと月灯りの下で隠れてることに感謝して。












「子供扱いなんてしてたら、こんなに我慢も必要ないよ」

煙草の煙に紛らせてポツリと覗いた心の内は、愛しい娘に伝わることなく濃紺の闇に消えた。




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