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春うららかな午後

里帰りをしていた時に、丁度桜が満開だったので季節もので。

桜前線はどこまで上ったかしら。

ま、まだセーフかな?









「蓮、お疲れ。次は『アッチ』だな」

撮影も順調に終わり、仕事のスケジュールを管理する社さんは、言外に「敦賀蓮ではない仕事」を確認してきた。

「社さん、お疲れ様です。今から向かいますよ」

俺もそれに対しては簡潔に応える。

「キョーコちゃんは?」
「彼女も今日は撮影がこの辺りらしくて。最上さんの方が早く終わるだろうからと近くで待ってくれてるはずなんですが・・・」

携帯を取り出し、最上さんからの着信なりメールなりを確認しようとした所で、社さんは自らの業務終了を告げるように手帳を鞄にしまう。気がかりだった少女との動向を知れたからだろう。そして、俺にとって有難い一言も忘れない。

「了解。ところで、キョーコちゃん、近頃めっきり美人さんになったって評判なんだから、早く迎えに行ってあげろよ」

あの、ダークムーンの最後のインタビューが全国に流されて以降、彼女に対する世間の目は確実にその色を変えた。無論、この芸能界においてもそれは同じ。

「勿論。悪い虫が近寄ろうものなら駆除しますよ」
「・・・先輩として?」

笑顔を、返事とした。
何も言えなかった。
これまで散々口にしてきたその境界を、越えることなんて出来ないと自分で分かっているのに、言葉にした途端、一生抗えない鎖に縛り付けられそうで。

なんて身勝手。

社さんは仕方がないという風に手を軽く上げ、「無理はするなよ」と言い残し踵を返して行ってしまった。
俺の思考のどこまでを理解しているのか、何も言わないでくれた背中を見送り、改めて携帯から最上さんの現在地を辿ることにした。

『お疲れ様です。こちらの撮影は終わりましたので、そちらの撮影所近くの公園でお待ちしてます』

メールボックスを見ると、やはり彼女からのメッセージがあった。相変わらず丁寧でスッキリとした文面に笑みが零れる。さらにもう一通、メールが来ていた。

『見事な桜です!写真を送りますが、やはりレンズ越しだと魅力半減ですね』

添付ファイルを開くと、画面いっぱいに桃色の花弁が映し出されていた。メルヘン好きな彼女の事だから、さぞ喜んでいるだろう様子が目に浮かぶ。
彼女の世界に俺も入りたくて、自然と足早に目的地へと向かった。



ポカポカとした陽気が全身を包む。
肌をくすぐる風は、まだ少しひんやりしていて気持ちいい。
色とりどりの花々がいたる所に咲き誇り、人も、空気も、自然も、春を謳歌していた。

公園へ着くと、木が生い茂った辺りへまっすぐに入る。舗装された広場やベンチには目もくれない。最上さんのことだから、きっとこの辺にいるはず。
なぜかそう確信出来た。
程なくして満開の桜が一本ぽつんと現れ、その根元に、彼女はいた。

「最上さん」

声をかけるが反応がない。それどころかグラリと傾く体に慌てて駆け寄ると・・・

「寝・・・てる?」

愛しい少女は、体を丸め、静かな寝息を立てて気持ちよさそうに眠っていた。
すぐ側には、綺麗に整理された本がいくつか見て取れる。ドラマの台本、学校の教科書、年頃の女性があまり好みそうではない「ロックの心得」為る雑誌。
最後のはセツカ用の教本だろうか。少しズレている気もするが、頑張り屋の最上さんの努力に、愛しい気持ちが更に募る。

「お嬢さん。こんな所で眠ると風邪引きますよ」

耳元に顔を寄せ、起こそうと声をかけるが、僅かに身じろぎをしただけで起きる気配はない。折り曲げていた姿勢を少しばかり開き、仰向けに近い体勢になった最上さん。

「ん・・・」

最近思うことがある。
セツを演じ始めてから、肌の露出に対しての警戒が甘くなったんじゃないだろうか。
陽のもとでは暑いくらいだったからだろう。胸元のボタンがいくつか外され、鎖骨から少し下まで露わになっている。
まったく、女の子がこんな所で無防備に・・・見つけたのが俺じゃなかったらどうなっていたか。
とりあえず、近くの裏道まで車を回そうかと考えていると、眼前の少女から微かな声が聞こえてきた。

「・・・ぅ・・・・ん・・・・・ゃ・・・」
「最上さん?」

眉根を寄せて、苦しげにうなされ出した最上さん。怖い夢でも見ているのだろうか。小さな途切れ途切れの声を逃さないよう、耳を澄ます。もし、本当に彼女を悲しませるような夢だとしたら、無理矢理にでも起こすつもりで。
しかし、聞こえてきたのは意外な言葉。

「・・・ぉこのみ・・・あんぱ・・・・ん・・・」

???

おこのみ・・・あんぱん?
食べ物、だろうか。最上さんが食に対してそこまでの拒絶を示すなんて、一体どんな恐ろしい食べ物なのか。
想像も出来ない食品名に思考を奪われていると、最上さんの夢は更に続いているようで言葉が紡がれる。

「・・・ひかる・・・さ・・・ん・・・も、入りませ・・・・・」

・・・・・。
なんだろう、物凄く不快だ。
俺は深く考えることを止め、彼女を夢の世界から引っ張り上げることにした。

「最上さん、起きないと・・・キスするよ?」

正直、それで起きてくれるとは思っていなかった。
ただ、その一言を言い訳に、ずるい俺は少しだけ君に触れてしまおうかなんて悪戯心を過らせた。
ところが。

今まで苦しんでいたはずの君なのに、どういう訳か、あまりにも嬉しそうにふうわり笑うから。
俺の言葉が届いての反応ではないと、分かっているのに。
一瞬、錯覚しそうになる。
君に、触れていいのだと。
身勝手な俺の欲望が、誰にでもない、君に許されているのだと、

いけない。

これ以上、最上さんのこんな可愛い顔を見ていたら、うっかりじゃ済まなくなる。
あぁ、さっきの言葉は訂正しよう。
俺にこそ、君はこんな無防備な姿を見せちゃいけない。

離れなくては、そう思った時。


ひら。

ひら。

ひら。


頭上の桜から、小さな花びらが降ってきた。
風に揺られ、たゆたうままに、次々と舞う桜のカケラ。
そのいくつかが、横たわっている最上さんにも遠慮がちに舞い降りる。
髪に、頬に、胸元に。


この、彼女が喜んでいたピンクの花ごしでなら、触れても、許されるだろうか。



俺はぼんやりと考えながら、そっと、彼女に咲いた花びらに、唇を寄せた。






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