不器用な悪戯

4月になりました。

ようやく春めいてきたかなーというところ。

思わぬ体調不良で倒れてましたが、なんとか浮上してきたのでようやく更新です。


今回
時系列でいえばACT.172の前、かな?
ヒール兄妹で過ごす夜、「役に入ろうとしてるキョーコ」な話。
そうじゃないと平気でいられないだろうなーと。









苦しい。

呼吸の仕方が分からない。

まるで、この世界から拒絶されているように、躰と意識がバラバラになる。

虚空の中、少しずつ、少しずつ、崩れていく何か。

私は必死に繋ぎとめようとするけど、ふと、やめる。

いっそ、壊れてしまえたら良いのかもしれない。





自分の周りだけがスッポリと落ちてしまうような、そんな浮遊感に、体をビクリと震わせて私は飛び起きる。
見慣れた自分の部屋ではないけれど、どうにか慣れてしまったホテルの部屋が、暗い視界にぼんやり浮かぶ。
はぁはぁ・・・と浅い呼吸を何度か繰り返し、そこでようやくシーツを握りしめていた手を開くことが出来た。全身の緊張が綻び、酷い倦怠感に襲われる。
不自然にヒヤリと体が冷たいことから、だいぶ汗をかいていたんだと随分遅れて気付いた。

(着替えなきゃ・・・)

ダルイ体に鞭を打ってベッドから降りようとした時、すぐ横のもう一つのベッドが目に入る。上に在るのは、まるで繭のような塊で、思わず笑ってしまった。
孵化しても、出てくるのは可愛らしい蝶なんかじゃなく、その鋭い眼光だけで人を射殺せるんじゃないかと思うような黒い獣だけど。
でも・・・私には滅法優しい、ドジっ子兄さん。
もとい。
兄妹として一緒に生活をしている・・・敦賀さん。
改めて考えると、不思議な生活をしていると思う。
社長の依頼から始まったことだけど、こうして時々兄妹として過ごす日々は、今まで甘えられる存在なんていなかった私にとって、とても心地の良いものになっていった。
いつかは、終わってしまうのに・・・。
ツキリと胸が痛くなった。
ううん・・・考えちゃダメ。

私は目を閉じて、静かに唱える。

せめて、今は、今だけは、私はセツカでいよう。



ゆっくりと瞼を上げると、普段の自分なら思いつかないような考えが浮かんできた。
でも、それを抑制することは不思議とせず、むしろ楽しいと口の形を笑みに変える。
緩慢な動作で敦賀さんのベッドに上がると、ギシリとスプリングの軋む音が聞こえた。
私は構わず、猫のような態勢でそっと繭に近寄ると、敦賀さんを起こさないようその白い殻を剥いていく。
程なくして、スヤスヤと安らかに眠っている敦賀さんが現れた。

(まーた髪乾かさないで・・・)

寝ぐせのついた髪に嘆息しつつ、ゆるゆると柔らかいソレを梳くように撫でる。
髪がさらりと手を滑る感触を楽しみながら、ぼんやりと目の前の綺麗な人を見やる。

(可愛い顔・・・してるなぁ・・・)

大人の男性に対して「可愛い」は失礼かもしれないけど、こんな無防備な姿で熟睡してるなんて、私が信頼されている証のようで、なんだかくすぐったくなってしまう。
いつまでも敦賀さんの寝顔を見ていたかったけれど、私は先程の考えを行動に移すことにした。

「兄さん・・・」

あえてそう呼ぶことで、私は敦賀さんのスイッチをカイン兄さんに切り替えさせる。

「ん・・・セツ・・・?」

案の定、私をセツと呼んでくれた敦賀さん。まだ覚醒しきっていない様子で、僅かに身じろぎした隙をついて、私はその胸元に滑り込んだ。

「セツ?」

今どういう状況なのか理解した敦賀さんは、一気に眠気から覚めたようで、体を強張らせて私の顔を捉える。
私は至近距離で敦賀さんの眼差しを受け止めると、咎められる前に温かな胸元へ顔を埋める。

「怖い夢・・・見たの・・・」

ポツリと呟くと、敦賀さんは溜息とともに、あやすように頭を撫でてくれた。

「体が冷たい」
「うん。着替えようと思ったんだけど・・・兄さんに温めてもらおうと思って」

今度は少し怒ったような溜息の後、苦しくないように私の体を抱きしめてくれた。

「ふふ・・・あったかい」

暫くの、無言。
ただ過ぎていく時間に身を委ねても良かったけど、このまま眠ってしまうのは勿体ない気がして、会話を続ける。

「どんな夢か、聞かないの?」
「聞いて欲しいのか?」

待っていたかのようなタイミングで、即座に返事はしてくれたものの、疑問に疑問で返される。私だけが話したいみたいで癪だけど、構わず話を進めることにした。

「・・・夢の中で、アタシは兄さんと買い物してたの。でも、いつの間にかはぐれちゃって・・・」

一度、言葉を切って、なるべく明るく振る舞う。

「気付いたら知らない男の人達に囲まれてて、あーんなことやこーんなことされちゃうの。ね、怖いでしょ?」

嘘だけど。

抽象的な言い方が信憑性に欠けるかしらとも思ったけど、そこは大丈夫だったみたいで、みるみるうちに私のブラックアンテナが反応する。

「もし、その夢に続きがあるなら・・・俺が、そいつら殺してる」

地を這うような声と物騒な台詞で、敦賀さんの怒りの程が伺えるけど、全ては妹の・・・アタシの為だと分かるから、嬉しくなってしまうのはしょうがないわよね。
同時に、ちょっとだけ寂しいのはどうしてだろう?

「うん・・・ありがとう。じゃあ、可愛い妹の為に、このまま抱っこしててね?」

そう言うと敦賀さんは一瞬固まったものの、観念したように何度目かの溜息を吐き、私を再び手繰り寄せ温めてくれた。

「もう寝ろ」

深夜の逸遊はこれで終わり。


「おやすみなさい兄さん、大好きよ」



この白い暗闇の中。

醒めないまどろみに浸りながら。

ドロドロに甘やかして。



そうして訪れる別離の、夢と現の狭間に、大事な箱を捨てるから。































――――――――――――――

これは蓮が大変じゃないかな?w

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