天秤の杞憂 前編

バレンタインになってしまいました。


が。


蓮誕SSになります。


物凄い乗り遅れて申し訳ありません・・・!

そしてちょっと続きます。
近日中にupしますので!








「はぁぁぁぁ・・・・・」

ここはLMEの休憩スペース。椅子に深く腰掛けながら、酷く浮かない顔で盛大な溜息を付くのは当社きっての看板俳優だった。そこへ、戻ってくるマネージャーが一人。

「どうしたんだよ。ほら、コーヒー」
「ありがとうございます」

社は自販機から飲み物を購入するべく席を立っていたが、自分の担当俳優のただならぬ落ち込みように、カップのコーヒーを渡しながら思わず聞いていた。

「次の現場まで少し時間がありそうなんだ。一応、お前よりは長く生きてんだから、相談くらい乗るぞ?」

蓮がここまでダメージを受ける理由はなんとなく分かっていた。昨晩は久しぶりに早く帰宅が出来たので、長い長い片想いを成就させたキョーコと一緒に過ごしたはずだった。
付き合い始めて1カ月・・・それは楽しいひと時だったに違いないが、相手がキョーコとあっては話は別。どんなことを仕出かすか分からない突拍子のなさが彼女にはあるし、意識しない些細な彼女の反応で蓮のメンタル面に大きく関わりが出てくるのは確かだ。
だからこそ、この恋愛初心者を助けてやりたいと社は思っていた。
その心情を知ってか知らずか、蓮は観念したようにためらいながら話し出す。

「・・・社さん・・・俺が、他の子を好きになったって言ったらどうします?」

よもや蓮からそんな言葉が出ようとは思っていなかったため、耳から脳まで伝達が遅れてしまった社は、数秒間の気持ちの整理が必要だった。
分かってる、そんなことはあり得ないと。どうしてそんな話になったのか聞いてやりたいし、何より自分の答えを示さなければいけないと、なるべく深刻にならないよう軽い調子で返答する。

「そんなことになったら、お前の家の電化製品全部クラッシュさせてやるよ」
「それは・・・困りますね」
「そうやって失ったものの大切さに気付けば良いんだ」

パキリと、蓮の持っていたカップが軋んで形を歪める。まるで蓮の心情を移しているようだった。

「痛いとこを・・・」
「そりゃあそうだろう。俺の目から見てもあんな良い娘は2人といない。正直、お前と一緒に関わっていくなかで妹みたいに思ってるんだ。本当は殴ってやりたいとこだけど、そんなことになったら俺の首が飛ぶからな」

緊張を解くように、社も椅子に深くもたれ自分のコーヒーを一口飲む。
スイマセン、と苦笑しながら言う蓮をジト目で追い、続きを促す。

「で?お前に限って他の子に目移りするわけないよな?なんだってそんなこと聞いたんだよ」

まるで黒い重力の塊が蓮にだけ乗っかっているような、そんな重苦しい雰囲気を纏って暫くの沈黙の後、再び口を開いた蓮。

「・・・・・・距離が、分からないんです」
「距離?」

コクリと頷き、そのまま項垂れて話しが続く。

「近付きすぎると怯えさせてしまう。彼女が大事過ぎて・・・一緒にいられるだけで幸せなのに、時々暴走しそうになるんです。全部が欲しくなる・・・。性急に進めても、きっと最上さんはまだそんなことを望んでいないだろうし・・・」
「・・・・・蓮?えーと・・・その言い方だと、まるでキョーコちゃんにまだ手を出してないみたいだけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

沈黙は肯定だろう。その反応を見た社が涙を流すのも仕方がないことだった。

「お前・・・抱かれたい男NO.1の名が泣くぞ?」
「泣かせとけば良いんですそんなもの」
「あ!もしかしてキョーコちゃんに対する欲求不満で他の子に浮気か!?」
「そんなわけないでしょう!」

社のとんでもない発言に即座に否定する蓮。飲み干していたコーヒーのコップがついにベキリと潰れた。

「じゃあさっきの『他の子を好きになった』ってのは何なんだよ?」
「・・・!あれは・・・俺が以前付き合っていた彼女達に言われた台詞です。今までの俺は、他に好きな男が出来たと言われても笑顔で送り出せていたんです。その方が幸せだろうと、身を引くことが正しいと思っていた」

蓮は一度言葉を切って、自分に言い聞かせるよう目を閉じる。

「でも、最上さんにそんなことを言われたら・・・俺は自分がどうなってしまうか分からない。素直には従わないし、どんなことをしても彼女を手放したくないんです」

再び目を開いた蓮の双眸は、激しい熱さを湛えながらも底冷えさせるような暗さを灯していた。
だが次の瞬間には、その光彩も影を潜め、悲哀さえ漂うような自嘲じみた笑みを浮かべる。

「ただ・・・最上さんは違うかもしれない」
「え?」
「俺がもし『他に好きな子が』なんて言おうものなら、彼女はどうすると思いますか?・・・俺には、引き留めてもらえるような自信がないんです・・・」

芸能界一いい男と称される蓮をここまで意気消沈させるのはやはり流石だろう。社は、件の少女を思い出しながら、先ほどの蓮の質問の意味をようやく消化していた。
つまり、想いの大きさが蓮とキョーコで違う、ということだろう。そんなことはないと周りが言っても、ましてやキョーコ本人が言っても、蓮自身が信じないのでは意味がない。
自分で気付くほかないと、社は少しキツい口調で切り出すことにした。

「蓮、それはキョーコちゃんに失礼だろう」
「・・・!」
「お前は自分のものさしで勝手にキョーコちゃんの愛情を測ってるだけだ。目にも見えないものをどうやって正確に測る?違うだろ。愛なんてものは2人で時間をかけて作っていくもんなんだから」

弾かれたように顔を上げた蓮は、呆けた顔のまま社に向き直る。

「社さん・・・まさか社さんに愛のなんたるかを教えられるなんて・・・」
「馬鹿にしてんだろ!?」
「いえいえ、とんでもない。・・・ありがとうございます」

蓮は心の底からの言葉と、頭を下げることで感謝の意を示した。
この調子が出れば大丈夫だろうと、社は人心地つく。

(まったく、キョーコちゃんが妹なら蓮は世話のやける弟みたいだな)

「次に会うのは誕生日なんだろ?俺のスケジューリングを無駄にするなよ」
「あはは、善処します。もしかしたら今日も会えるかもしれなかったんですが・・・無理そうですね」

早々に席を立とうとする蓮に思わず聞き返す。

「なんでだよ?」
「ココで、時間が合えば少しくらいは話せるかもしれないと最上さんが言っていたんですが、俺の方がタイムリミットでしょう」

ココとは今2人でいる休憩ルームのことで、刹那の逢瀬も叶わなかった蓮を不憫に思うが、社は仕事モードにギアを入れる。

「あ、もうそんな時間か。悪い、ウッカリしてた。じゃあ移動しようか」
「ええ」




後ろ髪引かれつつその場を後にした蓮と社は気付かなかった。


少し離れた場所に、ピンクの屍が一体倒れていることに。





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