正しい召喚のススメ 2

コンコン。
木の扉特有の、奥に響くノック音がした。内側からの応答がなかったためか、遠慮がちに客人によってその扉は開かれた。









「おーい蓮ー?ここにいるかー?・・・・・何やってんだお前」

外気を引き連れて入ってきたのは、メガネをかけたスーツ姿の男。蓮には及ばずとも長身で、こちらも整った顔立ちをしている。

「くすくす・・・。あ、社さん。よくここが分かりましたね」
「そりゃあな。様子を見てこいって上からのお達しだよ。ところで、どういう状況なんだ?」

社、と呼ばれた男は呆れながら蓮とそばにいる少女を交互に見やる。
蓮はうずくまり、震えるほど笑いを噛み殺しているし、対する少女は号泣しながらテーブルとイスでバリケードを作っている。どれほどの防御力があるというのだろう。

「いえ、ちょっとアイサツしただけなんですが・・・」

なおも機嫌よく笑いながら、蓮は社に説明しようとするが。

「どこがアイサツなんですか!あんなの性質の悪いセクハラですよ!国が国なら訴えて勝てちゃいますよ!もうお嫁に行けない~~~・・・」
「お前・・・何しでかしたんだよ」
「社さんの想像ほど大したことはしてませんよ」

しれっと言い放つ蓮だが、キョーコを見つめる瞳には今まで湛えたことのない愛おしさが浮かんでいるのを社は見逃さなかった。

「ほー?」
「・・・何ですか」
「いや、従属モードじゃないなーと思ってな」
「ええ。あの娘が俺の主人なのは変わらないんですが、本人の希望で」
「あの・・・」

バリケードの向こうから、目を潤ませたまま警戒しつつ声をかけるキョーコ。
その頼りなげな存在に、非常に嗜虐心を煽られる。
天性のイジラレ気質というやつだろうか。

「あぁごめんね最上さん。こっちは社さん。同じ悪魔で俺の立会人だよ」
「立会人・・・?」
「そして社さん。こちらは俺の主で最上キョーコさん」

ちなみに、蓮のキョーコへの呼び方も「キョーコ」と呼び捨ては何かがダメらしく、数度の問答の末「最上さん」で落ち着いたようだ。

「はじめまして。えっと、キョーコちゃん?俺は蓮の立会人で、召喚について色々説明させてもらいに来たんだけど・・・」

部屋の中なのに、どうにも微妙な距離が話しづらさに拍車をかける。

「最上さん。さっきのことは謝るから・・・こっちへおいで?」

毛を逆立てた猫のような状態のキョーコに優しく笑いかける蓮。その笑顔に嘘偽りは見えない。

「・・・本当ですか?もうしません?」
「うん。しないしない」
「ぅ~~~~~~~」

渋々二人に近づいてきたキョーコを見て「騙されやすいんだろうなー」と黒い悪魔二人は思ったなんて内緒の話。
テーブルとイスは元に戻され、それぞれが席についたところで社の説明が始まる。

「さて、早速だけど。今回蓮を呼び出したのはキョーコちゃんで間違いないね?」
「うっ、・・・はい」

結果だけ見れば、それは紛れもない事実だった。

「じゃあ、生贄は?」
「・・・・・・・・ぅえ?」

思わず変な声を出してしまう。単語だけが耳に残り、意味がさっぱり分からない。

生贄。イケニエ。いけにえ?

余程馬鹿ヅラをしていたのか、対面する男達は困ったようにお互いを見やり、社の方から口を開く。

「あーーーやっぱり分かってなかったんだ。うん、こういう時のための立会人だからね。大丈夫。説明させてもらうと、悪魔召喚ってのはタダじゃないんだ」

キョーコは右から左に流れそうな言葉を必死に脳内に引き留め、社の言葉を受け取る。そういえば、教科書で見たような気がする。その呼び出す悪魔の位に応じて、捧げる供物も変わると。

「で、だ。普通だったら呼び出した人間の魔力だったり、悪魔の好物だったりするんだけど・・・」
「あの・・・私はどうすれば・・・」

うーんと歯切れの悪くなる社を、キョーコは恐る恐る見上げる。
そのキョーコの視線を受け止めて、社はため息一つで少女の今後を憂う。

「蓮、どうする?」

静観していた蓮に進展を委ねるよう目配せをすると、それが合図であったように蓮がキョーコに向けてふんわりと柔らかく笑う。

「最上さん。今日の分はもう貰ったから」
「へ?」
「何!?」

これには社も寝耳に水であったようだ。しかしキョーコにとっては更に青天の霹靂。何もあげた覚えがないのに「貰った」とはどういう事だろう。

「何って・・・最上さんの魂」

酷くアッサリと告げられた衝撃告白。
そんな量り売り出来るような代物でもないのだから、所謂死刑宣告というやつだろうか。

「わ、私死んじゃうんですか!?」
「大丈夫だよ。命に関わる程じゃないし、寿命が減ったりもしてないから。そうだな・・・正確には魂から滲み出ているオーラを少し頂いたってとこかな」

「はぁ」

どうやら死ぬわけではないと幾分かホッとした表情を見せるキョーコ。
だがそれも数拍後に崩される。

「ここから・・・ね」

漆黒の悪魔は艶やかな唇を僅かに引き上げ、うっとりとした瞳で自身の白い頬を軽くなぞる。

「~~~~~!!!!!」

キョーコにとって、先ほどの羞恥をフィードバックさせるには十分だった。
あの時に、「生贄」とやらは捧げてしまっていたらしい。

(ぁぁぁぁぁ・・・そうなのね私なんてこの人達にしてみたら食物連鎖のピラミッドの下位のプランクトンのよう・・・ちょっと小腹が空きましたって程度に吸われただけよね・・・そうよ私はご飯だと思えば・・・って思えるかーい!!!)

「キョーコちゃん、声に出てるよ・・・」

泣きながらブツブツと呟くキョーコが可哀そうに見えてきた社。ようするに、このタラシ顔の男にキスをされてしまったのだと悟る。しかし、蓮にとっての栄養素になることから仕方がない状況なのだろうが。

「あぁそうだ。流石に何も影響がないわけじゃない。最初のうちは体にクル・・・かな?」
「な・・・ん・・・」

言うや否や先ほどの元気はどこに。キョーコの体は前に傾き、クタリとテーブルに突っ伏してしまった。最後の最後には何か言いたげな恨めしそうな眼差しで元凶を捉えたが、力尽きテーブルの質感ですら気持ちよさそうに寝入る。

「おやすみ。可愛い俺のご主人様」

今度は額に軽くおやすみのキスを降らせて。

キョーコの非日常が幕を開けた。




スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)