スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

落とし穴 1

某バラエティのコーナーを変換してみました。
知ってる人は知ってるよー。

続く予定です。




「ドッキリ、ですか?」

事務所に着くなり呼び出され、嬉しそうに口を開く椹さん。
今度の仕事の依頼は、ドラマでも何かの着ぐるみでも宛名書きでも裏方でもない、バラエティ番組のコーナーの一環でドッキリをするので、仕掛け人になってほしいということだった。
私生活では自他共に騙されやすいと認めているキョーコが、一体どんなドッキリを仕掛ければいいのだろうか。

「そうなんだ。って言っても、ターゲットと何回か飯に行くくらいかな。ずっとメールのやりとりをして気をもたせるのは番組のMCがやるから、あとは指示通りにやってくれれば良い」
「はぁ」
「で、最終的に最上さんが誘った家に男がついてきたらアウト!落とし穴にドーン」
「それはまた随分とカワイソウな・・・」
「まぁ、ちょっと懲らしめる程度だからな。それにしても、ゴールデンで顔のハッキリ出るテレビなんて大幅ステップアップのチャンスだぞ!」



と、いうことで現在に至る。

「京子ちゃんって普段どんな遊びしてるの?」

隠しカメラから撮影されているはずなのは、少し薄暗い照明の、雰囲気の良いレストラン。内装も落ち着いていて、シックなイメージのインテリアがさりげなく置かれている。バーのようなカウンターも備えられ、お酒を嗜むにしても丁度良さそうだ。周りを見ればカップルばかり。そんな自分も店を構成しているカップルの内の一人なんだろうと、キョーコはぼんやりと考えていた。

「そうですねー友達とカラオケとかかな?」

(モー子さんと行ったことは行ったものねカラオケ!歌いはしなかったけど!)

目の前にいるのが今回の仕事の相手で、騙される予定の男だ。名前は児島。最近ブレイクしているタレントらしいのだが、キョーコはテレビでも見たことがないので全くの初対面となる。自分はイケメンだと勘違いしている節があり、そこを面白がられてこんな企画のターゲットにされた。確かに、動作の一つ一つにどことなくウザったさを感じる。

(随分と遊びなれてそうだけど、私なんかが目に留まるのかしら)

キョーコはというと、フワフワロングカールのウィッグをつけて、メイクもプロから施され、「最上キョーコ」からは程遠いなりをしていた。
長い睫毛にパッチリとした瞳。ほんのりピンクに色付いた頬からは明るい印象を、艶のある薄い唇からは悩ましげな女性の色気が漂っている。
スタンバイの時間に確認した自身の姿に、こんなのに騙される男がいるのだろうかと不安になっていたキョーコだが、そんな心配をするのは本人だけである。

キョーコは気付いていない。
今の自分がどれだけ人の目を惹くのか。
相手の男が、どれだけ優越感に浸っているか。

程なくして料理が運ばれてきた。
前菜で出てきたサラダを口に運びながら、ふと先輩俳優の顔がよぎる。

(敦賀さん、ちゃんとご飯食べてるかな)

「京子ちゃんって好きな食べ物何なの?」
「えっ?あ・・・は、ハンバーグ・・・」

思考の海に半分浸かりかけた所への問いに、慌てて繕うように正直に答える。

「ハンバーグ~!?結構子供っぽいんだね。俺がもっと美味しいもの教えてやるよ」
「え~本当ですか~?超楽しみ~」

ムカッときた心は女優魂で抑え込んだ。同時に、以前ハンバーグを食べた時のことを思い出す。

―――おいしそうに食べるな・・・と思って―――

(敦賀さんは・・・馬鹿にしなかったのよね・・・)

トクン・・・と胸が温かくなる。ふわりと滲む不思議な幸せが顔に出たかもしれない。

「今度ハンバーグより美味いもの、食べに連れてってあげるからさ、予定明けといてね!ところで京子ちゃんって彼氏いないの?」
「・・・いませんよ?」

二度と恋なんてマヤカシに騙されるもんですか。と。本音は笑顔で隠した。

「え~こんなに可愛いのに勿体ない。じゃあ好きな人とかは?」
「今は・・・そんな人は・・・」

いない。という言葉が掠れて出てこなかった。
一瞬だけ、誰かが浮かんだなんて・・・考えることに蓋をする。
これ以上はダメなんだと。
遠くから得体の知れない何かが襲ってくる感覚に、急いで逃げるよう目を瞑る。
自分は今、どんな顔をしているだろう。
その時、若干のノイズと共に小型のスピーカーから指示が来る。

『京子ちゃーん。メインの最後の一口、可愛らしく「あーん」してあげてみて』

ナ・ン・デ・ス・ト

カップルがよくやるアレですか。見るだけで砂を吐きたくなるアレを今やれと。

(ど、ドラマだと思えば・・・!こんな役が来てもこなせるよう心の準備の前の段階だと思えば・・・!これも仕事、仕事、仕事・・・)

数秒の間に「仕事」だと脳裏に刻み、プロに定評のある根性でとびきりの笑顔を作る。

「児島さん、はい、アーン」

フォークで刺したお肉を児島に差し出した時。


パリンッ


少し離れたカウンターからグラスの割れる音がした。
何事かと周囲の人間は音の方向に顔を向ける。

「わーーーお前何やってんだよ!スイマセンスイマセン・・・!」

キョーコは固まった。聞き覚えのありすぎるこの声は、よく見知っている人のマネージャーのもので・・・。
ギギギと錆びついた音がするように顔を上げると、そこには案の定背格好だけで判断がつくほどの尊敬する先輩がいらっしゃった。

目が、合う。

心の臓を貫かれるような、激しい情感の籠った鋭い視線に。
金縛りにあったように動けなくなった。

獲物にされたウサギの気持ちが分かったと後に彼女は語った。







スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。