籠の中から見える空 1

本当に、完全に思いつきでやってしまいました。
キョーコさんに言って欲しい言葉のためだけに作ったと言っても過言ではないという。


続きます・・・続くかなー。。









「ぃゃっ・・・」

はっきりとした拒絶。
怯えの入った瞳にうっすら涙を浮かべて、俺から離れていく。
ともすれば壊れてしまいそうな君を、大事に大事に隠すことで守っていたつもりだった。
・・・いや、違う。
そんなのは建前だ。
誰の目にも触れさせないように、この手で閉じ込めた。
君の世界の、全てを奪って。
何もなくなった君を迎えるのは簡単だった。
もっともらしい理由と、少しの嘘で、すんなり俺の元に舞い込んでくる。
なんて単純で、憎らしい程愛しい。

「来ないで・・・!」

近くにある物を投げるだけじゃ、抵抗にはならないよ。
涙を溜めた目で凄んでみても、男を煽るだけだって君は知らないだろうね。
どれだけ嫌悪されようと、俺は君を逃がすつもりはない。
どうしようもない焦燥感は、君だけが埋めてくれるから。
こうして手を伸ばせば、いつでも抱き寄せることができる。
暴れる君をベッドに組み敷くことだって、俺にとっては何の苦にもならない。

「離してっ!やだ・・・ここから出して!」
「行く宛もないのに?」
「貴方が・・・全部悪いんじゃない!」
「イケナイ娘だ。誰から聞いた?」
「・・・っ」

その顔は後悔かな?
本当に分かりやすいね。

「まぁいい。全員処分するだけだ」
「最低・・・!」
「誉め言葉だね」

抑え込んで動けない君の首筋にツゥッと舌を這わすと、ビクリと跳ねる躰。
漏れ出る吐息に狂いそうになる。

「・・・大嫌い」

感覚全てを遮断するように瞑った目から零れる滴。
その様を美しいと思う俺は、どこまでも君に堕ちていく。





「はい、カーット!」

監督の声が響いて、俺は意識を現実に引き戻す。
今は新しいドラマの撮影中だった。
作り物の小さな部屋が直前まで俺がいた世界。その中で俺は資産家の跡継ぎという設定。
不運にも彼以外の親族は全員亡くなり、莫大な富を一挙に背負うことになったらしい。
持て余す財力は尽きることなく、彼の身の回りを豊かにしていく。その反面、永い永い孤独に蝕まれていき、歪んだ心はやがて・・・恋焦がれていた相手を自分のもとに閉じ込めてしまう。
その相手が、最上さん。
よりにもよって、どうしてこのキャスティングなのか・・・いや、最上さんがこの役を引き受けた以上、他の男にこのポジションを譲る気はないが、それでも・・・と、俺の腕の中にいる彼女を見やる。
衣装は薄い白のワンピースだけという扇情的なもので。
はっきりと体のラインが見えない分、その下の柔らかな肌を想像してしまう。
黒く艶やかなロングのウィッグが白い肌をさらに映えさせ、ベッドに広がる様はまるで誘っているようだった。
よく・・・色々我慢したよ俺。
軽く頭を振って、自分の不埒な欲望を片隅に追いやり体を起こす。
なるべく体重をかけないようにしたが、無理はなかっただろうか。

「蓮、キョーコちゃんお疲れ」

社さんが最上さんに羽織るものを持ってきた。流石に室内とはいえ、肌寒い恰好には違いない。それに加え、これ以上は色んな弊害が俺にも周りにも出てくる。その辺りの気遣いも、この出来たマネージャーは含んでいるんだろう。まったく・・・また遊ばれるネタが増えた気がするな。
ひとまず逡巡する葛藤は置いておき、最上さんに呼び掛ける。

「最上さんごめん、大丈夫だったかな」
「・・・・・」

彼女には珍しく反応がない。未だベッドに横たわったまま、どことなくぼんやりしている。

「最上さん?」

体調が悪いのか、熱でもあるのかと、最上さんの額にそっと手を伸ばした瞬間。

「ぃやっ!・・・あっ・・・あれ?」

俺の伸ばした手を見て、ビクッと震える最上さん。演技でもなんでもなく、純粋に怯えているような反応から、すぐに自分で気付いて周りを見渡す。

「キョーコちゃん!?」

社さんの声に初めてガバリと体勢を起こし、小さく丸まって恐る恐る俺を見上げる。その顔は青ざめていて、若干のパニックが見て取れた。

「あっ・・・私・・・す、スイマセン!」
「・・・役から、抜けてなかったのかな?」
「そうみたいです・・・」
「あーそういうことか。流石蓮、本気で惚れさせることも出来るならその逆も然りなのか」
「社さん・・・冗談やめてください」

それは困る。
非常に困る。
台詞でさえ「嫌い」だなんて言われて、なんの精神的被害もないかといえばそうではないのに。
ドラマの世界を離れても、現実に避けられたら・・・俺はどうなる?
ふっと、先ほど自分が演じた場面が頭をよぎる。

―――トジコメテ―――ジブンダケノモノニ

病的なまでに想いが募り、暴走していく恋情。歯止めのきかない狂気は、果たして彼女をどうするのか。
昏い沼に沈んでいく感覚に襲われた時、鈴のような控え目な最上さんの声ではっとする。

「申し訳ありません。私が未熟なばっかりに・・・」
「いや、そんなことはないよ。最上さんがちゃんと役に入ってくれたから、俺も本気で演技出来たんだし」

本当に申し訳なさそうにシュンとしている最上さん。大丈夫だよと、笑顔を向けるとようやく最上さんも笑ってくれた。
それだけで救われる気がする。

「今日は二人とも撮影終わりだろ?キョーコちゃん、蓮にご飯食べさせてやってくれない?俺はもう少し打ち合わせがあるからさ」

社さんはそう言って、持ってきた上着を最上さんに羽織らせ、そそくさと退散してしまった。


お言葉に甘えて、俺は彼女との夕食を楽しませてもらった。
和やかに、他愛ない話や、演技の話に花を咲かせ、彼女の親友への思いに少しの羨ましさを覚えたりしながら。
いつも通り・・・いや。
いつもより、少し幸せな夜を過ごしたんだ。


ただ。

その日以降、最上さんの様子がおかしくなった。


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