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リンクのお知らせ&頂き物

この度、リンクをさせていただいていたさつき様のサイト名が変わりました。

「妄想玉手箱」

です!

ポンポン素敵な御話が飛び出してきそうですね!

更に、期待通りのキュンとする御話を頂くことが出来ましたので掲載します。
この続きが非常に気になる所ですが、ご想像にお任せだそうです。
気になるよぉ~。



それでは、続きよりご堪能ください。




Jesus Christ



一度、そして間をおかずもう一度、はっきりと耳を打った人の声――それも、ただならぬ叫び声に、キョーコは意識を浮上させ、目を開けた。視界はしっとりとした暗闇に覆われている。馴染みのないベッドの感触に違和感を感じたのは一瞬で、すぐにキョーコは状況を思い出した。そう、今は、先輩俳優敦賀蓮の手伝いで、ホテルの部屋に泊まっているのだ。
 ぼんやり瞬きをして、薄暗い中、平らかな天井を眺める。枕元に置いた電子時計は午前三時を示していた。三度、先ほどキョーコの眠りを破ったのと同様の叫び声が静寂を切り裂いて部屋の中に響く。キョーコは跳ね起きた。
 声はキョーコの隣、蓮のベッドから聞こえた。蓑虫のように毛布にくるまって眠る、先輩俳優の姿は眠る前に見たときとそう変わらない。だが、蓑虫の頭からは、苦しそうに歪んだ端正な寝顔が覗いていて、彼がうなされていることは明らかだった。
 キョーコが慌ただしくスリッパを履いて駆け寄る間にも、蓮の口からは、さらに叫び声が漏れた。辛うじて聞き取れたその言葉の内容に、キョーコは眉根を寄せ、蓮を起こそうと伸ばした手を、一瞬止めた。
 ジーザス・クライスト――確かにそう聞こえた。ひどく綺麗な発音のそれは、余りにも有名な言葉だ。しかし、一般的日本人が、うなされて口走るには少々不似合いすぎやしないだろうか。キョーコは、かつて『坊』として、蓮と交わした会話を思い出す。『てんてこ舞い』という言葉を知らなかった蓮。どこか外国にいたのでは、というそのとき抱いたキョーコの疑念は、実は正しかったのかもしれない。
 一瞬頭を駆け巡ったそれらの思考は、だが、次に目に飛び込んできた光景に、光の彼方に飛んでいった。先輩俳優の眦からは見る間に透明な雫があふれ、こめかみへと流れていく。キョーコは慌てて、蓑虫の毛布を解きにかかった。大体、こんな風にくるまって寝ているから、うなされたりするのだ。
「敦賀さん!起きてください!敦賀さん!」
 ようやく毛布を解いてキョーコが揺さぶる中、なおも先輩俳優は眠ったまま何事かを呟く。今度もスラング混じりの英語のようだ。辛うじてキョーコに聞き取れた部分は、「許してくれ」。何となく、聞いてはいけないことを盗み聞きしている気分になって、キョーコはそれ以上寝言を聞かないように努めながら、懸命に蓮を起こした。
「敦賀さん!夢です!起きて!」
「え……ああ、最上さん……」
 そうして、やっとのことで目を開けた先輩俳優は、まだ意識がはっきりしていないのだろう、ぼんやりキョーコを見上げた。キョーコはほっと息を吐く。
「大丈夫ですか、随分うなされていましたけど」
 ベッドの横に座り、サイドボードからハンドタオルを取って目元をそっと拭ってやると、先輩俳優は気づいていなかったのか、愕然とした表情を浮かべた。
「え、俺、泣いて……!?」
「よほど嫌な夢をご覧になっていたようなのでお起こししましたが、ご迷惑でしたでしょうか?」
 キョーコはそれには触れず、事務的に訊いた。後輩ごときに夢を見て泣いているところを見られたなんて、普通の男性ならプライドに障るにちがいない。すると、蓮は動揺を顔に浮かべながらも、微笑んだ。
「いや、ありがとう。助かったよ……うん」
 前触れもなく至近距離で炸裂した甘やかな神々スマイルに、キョーコの心臓の鼓動がはねた。
(どどど、どうして、ここで神々スマイルなの!?)
 そんなに、夢から覚めたことが嬉しいのだろうか。お礼のつもりなのかもしれないが、はっきり言って心臓に悪い。迷惑だ。
「お、お水をお持ちしますね」
 急に、先輩俳優が横たわっているその同じベッドに座っていることがいたたまれなくなって、キョーコはそそくさと立ち上がった。――立ち上がろうと、した。
 手を掴まれたと思った一瞬後には、キョーコはベッドの上で、暖かくも力強い腕に抱きしめられている。キョーコの頭の中は真っ白になった。自分は今、もしかしなくても、蓮に抱擁されているのだろうか。
「つ、敦賀さん……?」
 恐る恐る声をかければ、身体に絡みついた腕には、さらに力がこもった。布団と蓮の身体の暖かさと、そこから漂う良い香りが、何ともいえず心地よくキョーコの心をくすぐる。そうしていると、心の奥の扉に鍵をかけてしまい込んだはずの感情――絶対誰にも見せないと決めたはずの、軽井沢で蓮がキョーコにかけた悪い魔法が、胸の奥からじわじわと溢れ出してきてしまいそうだ。自分の胸の鼓動をうるさいと思いつつ、震える声でもう一度名前を呼ぶ。
「敦賀さん……?」
「ごめん、少しだけ、このままで……」
 常になく頼りない声に、キョーコは顔を曇らせた。抱き枕を求めずにはいられないほど、嫌な、恐ろしい夢だったのだろうか。それはそうだ、大の男が泣くのだから、余程の夢だったに決まっている。だが、嫌とか恐ろしいとかいうよりも。
「悲しい夢を見たんですね」
 するりと口をついて出てきた言葉に、蓮の身体がぴくりと揺れた。
「……俺は、もしかして、何か寝言を言った?」
「何か叫んでおいででした。よく聞き取れませんでしたけど」
 それが英語だったことは、触れずにおこうと思った。ただの後輩が踏み込んでいい領域ではないだろう。
「そう……起こしちゃったんだね、ごめん」
「いえ、それは全然構わないのですが……」
 この状況は大いに構う。だが、夢を見ていたときの蓮の表情を思い出せば、それを口に出すのは躊躇われた。苦しそうな悲しそうな、辛そうな顔は――いつかの坊のときに見た、あの顔だった。見る方の胸が痛くなるような、悲痛な顔。その蓮の苦痛が少しでも和らぐというのなら、少々抱き枕になるくらいがなんだというのだ。
「こんな風に夢を見ること、よくあるんですか?」
「いや……かなり久しぶりかな」
 では、以前はよく見ていたというのだろうか。泣くほど、悲しくて辛い、多分過去にまつわるのだろう夢を。
「敦賀さん。……私に、他にも何かできること、ありませんか?」
 気がついたときには、キョーコは口走っていた。

「……」
 長い沈黙が返った。
 変なことを言ってしまったかとキョーコの焦りが育つ中、たっぷり数十秒ほどもたったあと、キョーコの耳に届いたのは深いため息だった。
「す、すみません、ただの後輩ごときが出過ぎた言葉を!」
 気に障ったのだろうと慌てて身動きをすれば、身体に巻きついた腕はさらにきつくなった。そろそろ息苦しい。
(どうしてここで、さらにぎゅうなの!?)
 行動が一貫していないにも程がある。脈絡がさっぱりわからず、キョーコの頭の中は疑問符でいっぱいになる。
「ちがうよ、そうじゃない。そうじゃなくて……きみは分かってるのかと思って」
「何をです?」
「俺は男できみは女の子で、ここはベッドの中なんだけど」
「敦賀さんが男性なのも、私が女なのも承知しておりますし、ここがベッドなのも知っていますが」
 何を当たり前のことを、と言わんばかりに答えれば、果たして、深いため息が再び耳を打った。
「だからね、こんな風に抱きしめてる相手にそんなことを言うなんて……まるで誘ってるように聞こえるよ」
「誘って、って……えええぇぇぇ!まさか、そんなつもりは」
 意味を理解するにつれて、恥ずかしさの余り、キョーコは真っ赤になってもがいた。だが腕は巻きついたまま離れない。
「分かってるよ、きみにそんなつもりがないことくらい」
 あっさりと返ってきたその答えに安堵して、キョーコは身体の力を抜く。
「だけどね、この状況でそんなことを言うなんて、危機意識が低いにも程があるよ?俺が、紳士の皮を被った狼だったらどうするの」
「いえ、敦賀さん相手なら絶対大丈夫です」
「え……」
「敦賀さんみたいな女性がよりどりみどりな方が、私のような地味で色気のない女を相手にそんな気になるなんてこと、ある筈がありません!」
「いや、そんなことは……」
「そもそも、代マネでお風呂をお借りしたときに、私がそういう意味で敦賀さんの視界に全く含まれていないことは分かっておりますから!」
 だから心配ありません、と続けた言葉の途中で、キョーコの身体を浮揚感が包んだ。ぼすりと荒々しく投げ出されたのは、蓮の枕の上で。巻きついた腕の片方は解かれたものの、今度はキョーコの顔の脇に置かれているし、もう片方は未だ身体に巻き付いたままで、身動きできない状態なのは変わらずだ。
 そして、ありえない程の至近距離に、蓮の真剣な眼差しがあった。キョーコとまっすぐに視線を合わせ、蓮はふっと笑う。
 キョーコは硬直して、先輩俳優の整った顔立ちを見上げた。この妖しいほど色気に溢れた雰囲気は、間違いない。
(よ、夜の帝王……)
「試してみる?」
「な、ナニヲデスカ……」
「俺がきみ相手に、その気になれるかどうか」
 つつ、と首筋を撫でられて、キョーコの全身は総毛立った。
「ご、ご冗談を……」
「冗談?冗談を言っているのは、きみの方だよ。……もし、俺が、きみにしてほしいことは、それしかないと言ったら、きみはどうする?――俺らしくないって、言うのかな。でもね、最上さん。きみの知ってる敦賀蓮なんて、俺が作り出した、虚構の存在だ。俺らしくなくても、これが俺なんだ……」
 底光りのする瞳で見下ろされ、キョーコは気圧されて、ただ先輩俳優の瞳を見つめた。いつもの穏やかで優しい光ではなく、苛烈で激しい光を湛えたその瞳は、――どうしてか、傷ついて泣いているように見えた。
 からかわれているのだろうと思う。だが、どうしてもそれだけとは思えなかった。
「――女心を弄ぶような嘘は、つかないんでしたっけ」
 キョーコが呟けば、先輩俳優の瞳は揺れた。それで、決心がつく。キョーコは目を細め、不敵に笑った。両手を伸ばして、蓮の首に抱きつく。先輩俳優の身体は、キョーコが触れるときに、びくりと震えた。手負いの獣――何があったのかは知らないが、過去に受けた傷を、自分に向かって晒しているのだろう蓮を相手に、そうすることが、キョーコが蓮のためにできる、精一杯のことだった。
「敦賀さんがどんなひとでも、敦賀さんは私の尊敬する人で、目標で――私は、敦賀さんを、信じてますから」
 そして、キョーコは目を瞑る。語尾が少しだけ震えてしまったことが、心残りだった。

(了)


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