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寒い日には・・・

暖まるには体の中からってことで。




本当にどうしてくれようかこの娘は・・・


自分の食に対する無関心さは自覚しているつもりではいた。
いや、正確には自覚させられたというか。周りに多大な影響を与えるあの娘のおかげで。
体が資本のこの仕事で、必要最低限の栄養として「なんとかインゼリー」なんかは一応食べるようにしていた。
ただ、あの娘・・・最上さんには風邪で倒れて以降、殊更に気にされるようになった。
言葉には出さずとも、顔を見れば書いているように思うのは俺の気のせいではないはずだ。
心配、してくれているんだろうか。
一体どんな気持ちで?
たかだか事務所の先輩ごとき、そこまで気にかける必要もないのに。
・・・そんな気遣いが出来るところが彼女のいいところでもあるか。
これが俺以外の人間に対してもそうなのだろうか。
例えば仕事仲間だったり、事務所の誰かだったり、あるいは俺の全く知らない相手だったり・・・。
・・・・・・・・・。
やめよう。
俺の預かり知らぬところで最上さんが他の男に対して心配をしているだとか、万人を癒す笑顔で微笑みかけているだとか、想像するだけでどす黒い感情に支配されそうだ。
彼女の心を占めるのは俺だけでいてほしい。
なんて子供じみた独占欲。
望んだところで、叶うはずもないのに。
だから・・・こんなことになる。


「敦賀さん?どうされました?」
「・・・え?」
「ぼんやりされて・・・あ、もしかしてお口に合いませんでしたか!?」
「いや・・・」
「それとも多忙を極める中で私ごときの訪問がご迷惑に・・・!!」
「最上さん、ストップ」

非礼を詫びなければと、そのままの流れで土下座しようとする彼女を制する。
全く、こういう時は次の行動が手に取るように分かるのに。

「こうして夕飯を作ってくれる相手に感謝こそしても、迷惑だなんて思うはずないだろう?もちろん、最上さんの作ってくれるものは何でも美味しいしね。本当にありがとう」

落ち着かせるようにいつもの笑顔で続ける。

「ただ、少し疲れていてぼんやりしてしまったかな。ごめんね」


現在時刻は21時過ぎ。
仕事を終え、ようやく帰宅したところへ最上さんが夕飯を作らせてほしいとやってきた。
先日からの急な冬の足音で、夜になるとスッカリ冷え込み少し厚めの上着でも寒いくらいなのに、彼女はその上着を脱いで腕に抱えていた。共に両手には食材が入っているであろう買い物袋が。
体が温まる程の重い荷物ということが見て取れる。
それなのに満面の笑顔で来るものだから、思わず抱き締めそうになるのを抑えるのに苦労した。
急いで荷物を受け取り部屋へ招き入れて、突然の訪問の理由を尋ねる。
聞くと、社さんから「頼むからまともなご飯を食べさせて欲しい」との切なる依頼を受けたらしい。
それはそうだろう。ここ最近の自分の食生活の杜撰さは目に余るものがあったに違いない。
これが、社さんに依頼してもらうようわざと・・・だなんて知ったら最上さんは怒るだろうか。
手際良く夕飯の支度をしながら最上さんは「やっぱり食欲クラッシャーなんだから・・・」などと呟いているのを聞くと、自分の予想は概ね当たっていそうだ。
そこまで思い出して、目の前の土下座一歩手前の最上さんを覗き込む。


「やっぱりお疲れですよね・・・。夕飯が終わり次第、迅速に片づけて退散致しますのでご安心を!」

一瞬シュンとなった彼女だが、すぐに笑顔で胸をドンと叩く。
終わり次第・・・ねぇ。

「いや、ゆっくりしてくれて一向に俺は構わないんだけどね。それに・・・この量はすぐに食べきれないよ?」

テーブルに並べられているのは見るだけで満足感を得られそうなほどのお鍋だった。
まだこれから投入予定の肉や野菜がてんこもりだ。
急に寒くなったので、体を温められる最適の料理だという。

「あははスイマセン。気合入れて作りすぎちゃいましたね。でもお野菜はたくさん採れるし、食べ終わったら出汁がたっぷりの雑炊にも出来るし、一度で何度も美味しいものなんですよ?それに・・・」
「それに?」
「お一人だったら中々お鍋って食べないじゃないですか。今日はほら、私もいますし!」

・・・・・・。
危ない危ない。
お鍋より君の笑顔で暖まれるんだから、俺も相当なもんだろう。テーブルを挟んで座っていて本当に良かった。
自分の外れそうな箍を、なんとか締めなおして。

「うん・・・そうだね。じゃあ二人で頑張って食べないとね。ところで、これは何鍋になるのかな」
「あ、これは水炊きキョーコスペシャルです!僭越ながら、いろいろと手を尽くさせていただきました」
「へぇー」

確かに美味しい。その辺の店で食べるものより余程レベルが高い。

「えっと、山芋を使ったツミレと、少し厚めにスライスしたニンニクなんかもほくほくして美味しいんですよ」
「そうだね。初めて食べたけど美味しいよ」

他にもいくつか挙げられた食材を見るに、ずいぶんとスタミナが付きそうだなぁとのんびり構えていたら。

「それと、隠し味にハブ酒」

・・・ん?

「本当はスッポンがあったら良かったんですけどね。流石に金額的に無理がありました」
「も、最上さん?」

えへへ、なんて花が舞いそうな愛らしい笑顔で「ちょっと高かったんですよねー」って。
どこで仕入れる気だったのとか、お金なら俺がいくらでも払うのに、だとか、言いたいことは次々出るもののそれが言葉になることはなくて。とりあえず一番聞きたいことだけは振り絞って言うことができた。

「えっと・・・どういうテーマでチョイスされたものなのかな?」
「もちろん、元気になってもらうためのチョイスです!」

元気・・・そうだろうな・・・。
思わず空を仰いだ俺を見て、最上さんは違う心配をしたようだ。

「あ!もしかしてハブ酒使っちゃいけませんでしたか!?調味料の所に一緒に並んでいたので良いものだと・・・」
「いや、大丈夫だよ。あれは沖縄に行った時、社さんから無理矢理渡されたものだから・・・」

言いながらその時の社さんとの会話を思い出す。
確か帰りの飛行機に乗る前だったか。


「良いから旅の思い出に貰っとけって!ハブなんて沖縄にしかいないんだから!」
「はぁ・・・。折角ですから貰いますけど、なんでそんなにコレを推すんですか」
「ん?滋養強壮に。こんな仕事してるから不規則な生活送ってるだろ?結構元気になれるって評判なんだよ。あ、でも飲みすぎるなよ?」
「どうしてです?」
「俺の知り合い、若い頃に飲んでその日は眠れなくなったらしいんだ。なんでも、オトコノコには効果がありすぎたらしい」
「・・・・・・それって・・・」

そこまで言うと社さんはニマァ~と笑ってとどめを刺してきた。

「キョーコちゃんの前では飲むなよ~?」


社さん。貴方はもちろん健康のためとして、他意は・・・なくもないのか、いや、でも冗談のつもりで言ったんでしょうけど。

「あの、でも、やっぱり使う前に一言了承を頂くのが筋ですよね。スイマセン、私代わりになりそうなものを何か買ってきますね・・・て、わぁ!」

落胆しているように見えたのか、慌てて席を立ち買い出しに行こうとする最上さんの腕を引き寄せ、俺の腕の中に後ろ抱きで迎え入れた。
すっぽりと収まるサイズの最上さんの小さな温もり。想像以上に華奢で柔らかな感触。ふんわりと鼻腔をくすぐる甘い薫り。
肩口に頭をのせ、僅かな体温を感じるように目を瞑れば。耳に心地いい声も聞きたくなって、少しだけ抱き締める腕に力を込める。

「あああああああの、つ、敦賀さん?わたしく、何か不手際を致しましたでしょうか・・・」

面白いくらい狼狽える最上さん。
あぁほら、だから少し意地悪したくなるんだ。

「そうだね・・・責任、取ってくれる?」

体内に摂取した成分が切欠か、普段から鬱積し続けた愚かな欲望の蓋が今にも開きそうで。

「わわわ私に出来ることでしたらなんなりと~~~!」
「ホントに?」

困ったな。
こうも抱き心地が良いと、離したくない。
くすっ、と漏れた笑みに、最上さんがビクリと固まる。
こんな時の俺に君は敏感に反応するよね。

さぁ、どうしようか?





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