正しい召喚のススメ 35 (完)


こんにちは、珠々です。

もう7月が終わりそうですよ。
毎日毎日暑くて溶けそうですが、諸事情により今夜はお鍋をします。



それはおいといて。

長らく続いておりました「正しい召喚のススメ」、今更新にてようやく最終話となりました。

1話の初稿は何年前だよという月日を跨いで、長々とお付き合いくださいましてありがとうございました。

話の流やある程度の内容は最初から決まってたんですが、なんでこんなに長くなったのか…(遠い目)
回収し忘れた何かがあるような気がしないでもない←

それでも、途中で挫けることなく最後まで書けたのも、拍手やコメントで反応くださる皆様のおかげです。
本当に本当にありがとうございました!

この二人の今後みたいな話もフラッとあげにくるかもしれませんが、ひとまず完結とさせてください。

では、続きよりどうぞー!











「これが、俺と君の出会いの話だよ」

大切な大切なたからものを守るように、蓮の言葉は紡がれていった。
嘘も偽りもない、過去の出来事。

蓮とキョーコはテーブルに向い合わせで座っていた。
じっと話を聞いていたキョーコは、目の前の蓮から愛しげな眼差しを向けられ、戸惑いがちに口を開く。

「あの……」
「ん?」
「敦賀さんがコーンだっていうのは分かりましたけど、私その時の記憶が曖昧で……一緒に遊んでくれたってことしか覚えてないんですが……」

確かにキョーコの幼い頃の記憶と合致する部分もあるが、そんな危ない目にあっただろうかと。
いや、言動が間違いなく自分だというのは「ショーちゃん大好き」な部分から察することは出来たが、それでもやはり現実感がなかった。
キョーコの申し出に、蓮はまた少しだけ話を続ける。

「その後の話をするとね、意識を失った君を、当時お世話になってたっていう旅館へ送っていったんだ」
「え、そうだったんですか!?」
「うん。でも、俺は見つかるわけにいかなかったから、コッソリ君の部屋に寝かせた所までは良かったんだけど」
「けど……?」
「部屋に入る時、張られてた魔除けの結界を全部壊したらすぐに人が来てしまってね、大変だったんだ」
「そ、そうでしたか……」

ニコヤカな笑顔で言われても、大変だったことが微塵も伝わってこない。
しかしその時に、施された術や聖具から、旅館の人間が退魔を生業としている者達だと分かったらしい。キョーコの持っていた魔除けの石も、出所はここだろう。

「少し離れて様子を伺っていたんだけど、警戒されたのか見回りの人間が増えた上に、君はそのまま高熱が出て数日寝込むことになったんだ」
「そういえば……酷い熱がしばらく下がらなかったことがあるって……」

滅多に風邪もひかなったキョーコが、突然の高熱に見舞われたとあって旅館内は心配の声で溢れたらしい。後からそう聞かされたことがあったが、よもやそんな事実があったとは。

「瘴気にあてられたのが原因だろうけど、その熱のせいで記憶の混濁が起きたんじゃないかな。命の危険があっただなんて良い思い出じゃないし、脳が忘れたい記憶と処理したのかもしれない。俺が側にいられたら違ったんだろうけど……」

蓮は少しトーンを落として当時を振り返る。
結局、その後蓮も迎えが来てしまい留まることは許されず、キョーコへ別れの挨拶も再会の約束も出来ずに離れ離れになってしまったのだそうだ。

「ご家族も心配されたでしょうね……」
「あー……そうだね……一番大変だったのは父かな」
「お父さんって、魔王様が!?」
「俺が行方不明になった経緯がバレて、『子供が大変な時に助けてやれない仕事なんて辞めてやる』って。それで、そのまま辞任、王の座を当代の魔王様に譲ることになったんだ。今思えば仕事放棄も良いところだけどね」
「いえ……優しいお父さんだと思います。……今は何をされてるんですか?」
「今は母と世界旅行中だったかな。のんびりしてると思うよ」

穏やかに微笑む蓮に、キョーコも自然と笑顔になる。きっと素敵な両親なんだろう。

「私もいつかお会いしたいです」

温かい家族に縁のなかったキョーコにとって、蓮が話してくれたような、愛情に溢れた家族は憧れの対象だった。
それに、蓮の両親であればお世話になっているご挨拶の一つも機会があればしたほうが良いかもしれない。

「……ほんと?」
「はい、人間礼儀を欠いちゃいけませんからね!」

そして蓮にも、どうしても言いたいことがあった。

「あの……敦賀さん……何度も助けて頂いて本当にありがとうございました」

今も、昔も、ずっと蓮に助けられてきたのだから。

「それと……敦賀さんのこと、すぐにコーンだって気付かなくてスミマセン……折角再会出来たって言うのに……」

蓮はキョーコのことを忘れずにいたが、キョーコはと言うとコーンと蓮が同一人物だと気付かないまま過ごしていたのだから、いたたまれないやら情けないやら申し訳ないやら。
もし、会いたくてたまらない相手が自分のことに気付かなかったとしたら、悲しいに決まっているのに。
だがそれに対し、蓮は何ともないように笑う。

「あぁ、それなら、ずっと最上さんは呼んでてくれたから」
「へ?」

何のことだろうか。
キョーコはキョトンと蓮を見つめ返した。

「別れの日から何年経ったかな。突然俺の前に異界の穴が開いたかと思えば、最上さんの声が聞こえてきたんだよ」

――――『コーン、私だよ』
――――『覚えてるかな……?』
――――『会いたいな……会ってお礼が言いたいの』
――――『コーン』

それは、幼いながら独学で召喚術を実行させたキョーコの声だった。
何度も、何度も、懸命に。

「『コーンに会いたい』って強く想ってくれてただろう?それが声になって俺に届いてたんだよ」
「そうだったんですか!?」

キョーコの記憶が確かならば、随分昔から召喚を試してきた気がするが、その度に呼ばれていたならさぞ煩かったのではないだろうか。

「スミマセン……煩くなかったですか……?」
「まさか。俺としては君の声を聞けるのが嬉しくて仕方なかったよ」

蓮の反応からどうやら煩わしくはなかったようで、キョーコはホッと胸をなでおろした。
しかし、どうして今になって召喚に応じてくれたのだろう。

「ちなみに、最上さんへ通じる路も繋がってたんだけど、魔力の関係でサイズ的にちょっと……俺が応えるには少し狭かったんだ。飛んでいきたい気持ちは山々だったんだけどね」

蓮は苦笑しながら、まるでキョーコの心を読んだように説明を加える。

「そ、それはご不便をおかけしました……」

自分の力不足が原因でそんな事になっているとは。
申し訳なさで縮こまるキョーコに、蓮は「いや、それは俺のせいだから」と加える。

「最上さんの魔力が不安定なのは、さっき話した通り俺が最上さんの力を無理矢理抑えこんだからなんだ」
「その影響で、私は上手く魔力を使えなくなってたんですか?」
「そうなんだ……これまでもどかしい思いをさせてしまってごめん。もう効力は消えているはずだけど……」

蓮が辛そうに項垂れるものだから、キョーコの方が慌ててしまった。

「いいえ、そんな!敦賀さんが対処してくれなかったら、私なんてとっくに食べられて死んでますよ!私がお礼を言いこそしても、敦賀さんが謝ってくれることないですから!」
「ほんと……君は相変わらずだね」
「え?」
「自分のことより他人のことばかり心配してる」
「そ、そうでしょうか?」
「うん。そんな所も好きだよ」
「ぅへぇい!?」

サラリと。
ド直球な好意の言葉。
思わず発音の難しい間抜けな声が出てしまった。

「一生懸命な所も、頑固で真面目で一直線な所も、純粋で騙されやすい所も。全部全部可愛いけど……」
「……けど?」

なんだか色々言われているが、スルーしようと言葉尻を返したキョーコに、蓮はニッコリと笑って続けた。

「君が俺以外を求めるなんて我慢出来なかったんだ」
「へ?」
「最上さん。俺がこっちに来た時、君は何て言ったか覚えてる?」
「え、えーと?」

たしか。

――――もう、なんでもいいから……

「『なんでもいいから出ておいで』……?」

ショータローと一悶着あって、その後叫ぶように言ったような。

「正解。対象を絞らない言葉のおかげで、あの瞬間、君と波長が合う全種族へも道が繋がったんだよ」
「え……じゃあ、敦賀さん以外が出て来ちゃってたかもしれないってことですか!?」
「そういうことだね。ただ、君の隣にいられる権利を誰にも譲るつもりはなかったから、小さな路をこじ開けて来たんだ。ちょっと無理矢理だったけど」
「むりやり……」

どれほどの大事なのかキョーコには推し量れないが、蓮が規格外なのは十分伝わってきた。
なんだろう、その界の理も何もかもを無視した行動力は。

「最上さんが俺のこと気付いてないのはすぐに分かったし、どうやって伝えようか考えるのも存外楽しかったしね」

屈託なく楽しそうに笑う蓮に、キョーコはストンと納得してしまった。

やっぱりコーンなんだなぁ。

垣間見えた幼い頃の面影に、それだけでなんだかひどく懐かしく、自分に起きた騒動も全部今に到るまでの必要事項だったのかも、なんて思う。
じっと見つめすぎたのか、蓮はキョーコの視線に気付くと悪戯っぽく首を傾げて笑う。

「ところで、昔みたいに『コーン』って呼んではくれないの?」
「~~って言うか、コーンって名前間違ってるじゃないですかっ!」
「どっちも同じようなものだよ」
「違いますよね!?」
「じゃあ、『久遠』って呼んで」

それはそうだろう。
間違って呼んでいたのなら、正しい名前で呼んで欲しいと思うのは当然で。

「……く……久遠…………?」

緊張しながら照れながらキョーコは初めて彼の名前を呼んだ。
声が上擦ったのは勘弁してほしい。
恐る恐る蓮を見ると、なぜだか顔を覆って俯いていた。

「あ、あの……?」
「ごめ……幸せ過ぎて……」
「えぇ!?」

いつも大人の余裕に溢れた蓮の、珍しく少し赤らんだ頬が見えて、キョーコはむず痒いような、面映ゆい気持ちでいっぱいになる。

「……キョーコちゃん」
「な、なに?」

今度はキョーコが、昔と同じ呼び名で呼ばれた。

「これから先も、ずっと一緒にいて良い?」

祈るような、嘆願。

「そんなの、良いに決まってるじゃない!」

キョーコは考えるまでもなく答える。
それを聞いた蓮は、破顔しながらキョーコの手をとった。

「嬉しいな。……未来永劫、何が起ころうとも、愛し側にいることを誓うよ」

ん?
言い回しに何かが引っ掛かった。

「ちょ、ちょっと待ってください……それってまるでプロポーズのような……」
「え?そうだよ?」

意識が遠退きかける。

「苦労は絶対させないし、甲斐性もあるつもりだよ?」

それは問題なさそうなのは先日から振り込まれている生活費の額でも分かる。

「君を害する全てから守りたいんだ」

『強くなる』という昔の約束のために、次期魔王筆頭候補にまで上り詰めたのだから、文句のつけようもない。

「……………ダメ?」

極めつけはこれ。
捨てられた子犬のような瞳で見つめられたら、もうキョーコに選択肢はなかった。

「…………お……」
「お?」

震えながら蓮の手を握る。


「オトモダチからお願いします……っ」


まだまだ、先は長そうな二人の物語。

ひとまずここで、はっぴーえんど?






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