正しい召喚のススメ 18


卒業シーズンですね!
春は出会いと別れの季節でございます。
うちの真ん中の子も幼稚園卒業が間近で、来月には小学生ですよ。
ピッカピカの一年生です。

大量の名前記入(さんすうセットとか)が待ってるんですが、シールを注文しても良いんじゃないかってアドバイス貰ったので検討中です。

あ、スキビ新刊今月発売ですね!
表紙見ました!?可愛いですよね!!
春らしいキョコ、御御足が眩しいと界隈で話題になりました。ホクホク

ちょっとリアルがバタバタしてまして、楽しいことだけ考えていたいのにそれも難しい無情。。
でも、頑張って更新は続けていきたいですので、連載ももう少しお付き合いくださいませ。

今回はちょっと長め。
続きよりどうぞー。














「皆さん、準備は良いですか?」

ふんわりとした、優しい声で授業の開始が告げられた。
魔術実習担当教師の緒方は、まさに薄幸の美人が体現したかのような出で立ち。
白く透き通る肌は女子生徒が羨む程で、儚げに微笑みを湛える様は守ってあげたいと庇護欲を誘う。

「今日は基本のおさらい、まずは炎を出してもらいます」

少し広めの実習室は複数クラスが合同で行っても問題なく、キョーコは奏江の姿を見つけるとニコニコと笑顔で手を振った。
それに赤くなりながらも奏江は「ちゃんと先生の話を聞きなさい!」と無言で睨む。

「では、順番に……」

スゥ。

ピンと張りつめた空気、凛とした緒方の声に、ざわざわとした部屋の雰囲気が、水を打ったように静まり返る。

「開始」

最初の生徒の詠唱が始まった。魔方陣が浮かび上がり、何もない空間に炎が生まれる。基本的な術だからこそ、詠唱時間や形成速度、炎の純度や性質に個人差が生じ、それが術者の実力を示す指標となった。数多くの生徒の中、やはり突出する者も出てくるのは当然で、ザワリとどよめきが起こる。
結界で遮断されているはずの熱が届く程の威力と、詠唱から形成までの早さは本日一番だった。

「さすが琴南さん」

称賛の声を向けられた奏江は、長い髪をなびかせ、事も無げに魔方陣を解除する。
無駄のない所作は美しさすら感じ、どこからともなく感嘆があがり、キョーコもまた目を潤ませて熱い視線を送っていた。

(モー子さん……凄い……)

キョーコはと言えば、一般学力全般はトップクラスなのに対し、魔術系実技はいまいち結果を残せていない。炎を出すにしても小さい灯火程度しか出したことがなかった。

「私も頑張らないと!」

小さく拳を握りしめたところで、いつの間にか近くにきていた奏江がコツリとキョーコをつつく。

「力、入りすぎ」
「モー子さん!」
「そんなんじゃ成功するもんもしないわよ」
「モー子さん……心配してくれたの?」

キョーコは奏江の言葉に涙をダバダバ流す。それにギョッとした奏江は慌てて否定するが、後の祭りだった。

「ち、違うわよ!?失敗するとアンタ落ち込んで鬱陶しいからっ……」
「うん!うん!」
「あーもーーー!!」

もはや何を言ってもご褒美とばかりに喜ぶキョーコの背中を押して、奏江は生徒の波へ消えていった。

「えへへ、モー子さんに励まされちゃった」

キョーコはと言えば奏江の励ましもあり、更に気合を入れて自分の順番に備える。
ゆっくり深呼吸して、集中を始めた。

(わたしは、だいじょうぶ……)

ところが。

(…………?)

どういうわけか段々と周りの声が遠くなり、やがて一切の感覚が遮断されたような不思議な浮遊感に襲われた。

(……あ、れ……?)

そしてキョーコの頭に、誰かの声が響く。



――――つまらないな

え……?

――――もっと大きく

もっと、おお、きく……

――――燃やせ

「燃やす……」



いつも通りの授業、いつも通りの室内。
完璧に制御された結界内の魔力が。
突如爆発する。

ゴォォォォ!!!!!

「きゃあああ!!」
「な、何!?」
「うわぁ!?」

生徒によって生み出された炎が巨大な火柱となり、さらにうねるように姿を変え暴れ出した。
抑えきれない熱と轟音、ものが焼ける臭いに、室内はパニックとなる。

「皆さん!落ち着いて!」

緒方が必死に声をあげるも、既に開かれた非常口には生徒が殺到し、収拾がつかなくなっていた。
とにかく炎の渦と化した塊をどうにかするべく緒方は封印の詠唱を始めるが、勢いは収まるどころか増すばかりだった。

「そんな……抑えられない……!」

息を吸うだけで喉が焼けそうな熱の中、緒方が見たのは暴れる炎の中心で佇む一人の影。

「……キョーコさん?」






「一体何なのよ!!?……そうだあの子は……!」

突然の火柱に奏江も勿論避難しようとしたが、いつもなら真っ先に自分の所へ駆け寄りそうな親友がいないのに気付いた。

「まさか、巻き込まれてないでしょうね……」

奏江は目を凝らしてキョーコの姿を探す。自分以外の生徒は既に部屋の外に出たらしく、これならキョーコもきっと外に出たんだと安心しかけた時、緒方が炎に向かって何か叫んでいるのが見えた。追った視線の先には。

「なんで……!!」

なんで逃げてないのよ!?

キョーコが、今にも炎に飲み込まれそうになっていた。

「ちょっと……っ!…………?」

様子がおかしい。炎に驚くでも怖がるでもなく、ぼんやりとただ立ち尽くしている。瞳には何も映さず、表情すらもない、まるで人形のような。
濁流に似た炎の渦が、キョーコを襲う。

「危ない!!」

知らず、奏江の体は走り出し、キョーコを庇うように抱き締め蹲った。
水を纏えば、酸素を遮断すれば、少なからず対処法は頭を駆け巡るが、それを実行する余裕もなく、一気に押し寄せる熱と、体が焼かれる感覚に奏江はギュッと目を瞑る。
ところが、いつまで経っても予想された炎のダメージはやってこなかった。

(……?)

熱も臭いも音も、確かに感じるのに、薄い壁を一枚隔てたような不思議な感覚に、奏江はそぉっと目を開ける。
赤い、赤い炎に浮かび上がるのは、真っ黒な人影だった。
奏江とキョーコを守るように背を向けているが、背格好から長身の男なのが分かる。
片手をあげて大気の流れを創っているのか、炎が遊ばれるように三人の周りを避け空間が出来る。並大抵の力ではない。

(すごい……)

もう大丈夫なのだろう、男はゆるやかに振り返りキョーコを見て眉根を寄せた。

「怪我は……ない?」

返事がないのは承知の上で、辛そうにキョーコへ声をかける。
煌々と揺れる灯りを受けた綺麗な男に、奏江は一瞬だけ惚けるが、すぐにキョーコを隠すよう間に割って入った。

「あ、あなたは……?」

思ったよりも熱気の影響を受けていたのか、掠れた声しか出せなかったが、未だ魂が抜けたようなキョーコを好きにさせる訳にはいかないと、警戒もあらわに訪ねる。
すると、それまで奏江には目もくれなかった男と初めて目が合い、微笑まれた。

「彼女を守ってくれて、ありがとう」

優しく、喜悦さえ感じてしまいそうな甘い声なのに、覗く黒曜の冷ややかさが奏江を一層警戒させる。
だが、男は再び視線をキョーコへ向けると、一瞬でふわりと距離をつめ耳元で囁いた。

「ごめん」

何をしたのか、突然キョーコの体が脱力して男にもたれ掛かる。

「……ごめん」

もう一度繰り返しながら、壊れ物を扱うようにキョーコを抱えた。既に意識を手離したキョーコはグッタリとしていて、そのまま歩き出した男に奏江は慌てて呼びかけた。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!何なのよ!?その子に何したの!?」
「……最上さんは連れていくよ、琴南奏江さん」

用は済んだとばかりに奏江を一瞥した男だったが、いつの間にか近くにいた緒方が行く手を遮る。
気付けば応援に来た職員が数人がかりで消化にあたり、炎も鎮火されつつあった。

「君が、キョーコさんの召喚した……」

疲労困憊の緒方は、それでも噂のキョーコ付き悪魔、蓮を重要参考人として引き留めるべく立ち塞がる。

「ええ。主人は具合を悪くしたので、本日は早退させます」
「それなら僕が校医へ連れて行きます」
「結構ですよ」

誰が見知らぬ相手にキョーコを診せるかと、蓮は笑って拒絶した。

「……この炎は、君が……?」

緒方が核心をつく。

「勘違いしないでください。ここは魔力の解析も出来ない無能ばかりですか?」

凍てつく眼光で侮蔑の意を現すと、蓮の姿はキョーコもろとも影の中へ消えていった。

「う……」
「緒方先生っ!」

蓮とキョーコ、二人が居なくなると同時に、緒方は糸が切れたようにふらりと崩れ落ちる。どれだけのプレッシャーだったのか、顔は蒼白で呼吸も浅く、流れる汗が尋常でない負担を伝えた。
流れを見守っていた奏江は急いで緒方に駆け寄り、消化作業にあたっていた教師を急いで呼ぶ。
なおも続く喧騒の中、奏江は蓮と共に消えた虚空を見つめた。

「大丈夫……なんでしょうね……?」

血の気を失ったキョーコの姿が浮かび、ただ親友の安否を憂うのだった。


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