正しい召喚のススメ 8

こんばんはー。

皆様ドラマCDは聴きましたか?(コミックス派の方は「?」だと思いますが、今回の花とゆめ本誌にはバレンタインのお話が収録されたドラマCDがなんと付録でついてくるんです)

あの、ちゅうのお話ですからね。
私も例にもれずニヤッニヤしながら聴きましたとも!!
キョーコは可愛い上に勢いや声量滑舌が素晴らしく、敦賀さんは相変わらずいい声でしたし、尚も結構嫌いじゃないなコイツと思っちゃいましたし、社さんのテンションには笑いました。
声優さんって凄いや。

さて、新年明けてからようやくまともな更新になりました。
しばらく私の頭ではこのお話が展開されているので、キリがつくまでもう少しお付き合い頂ければと思います。

では続きよりどうぞー。















「分かってたんです」

キョーコは俯き、膝の上に乗せた手をギュッと握ってポツリポツリと話し出した。

「私みたいに心の汚い人間が、妖精さんを喚べるはずないって」

自嘲するように力なく笑いながら、じっと足下へ視線を落とす。

「実は私、小さい頃妖精さんに会った事があるんです。キラキラして、優しくて、泣いてた私を励ましてくれた妖精の王子様に。今思えば奇跡みたいな思い出ですけど、もう一度彼に会いたくて……会ってお礼が言いたくて、頑張ってたんです」
「そう、なんだ」
「はい。でも、本当はそれだけじゃなかった。私……私……」

絞り出すような声と、小さく震える体から、これから告げる言葉がキョーコにとってどれ程の苦痛か窺い知れる。
蓮はそんなキョーコの痛みを和らげるように、キョーコの手に自らの手を重ねて包み込んだ。

暫くの、静寂。
どれ程そうしていたのか、時間にすればごく僅かだが、重ねられた手から力を貰ったかのようにキョーコはゆっくりと顔を上げる。
「大丈夫」と言葉には出さずに、その瞳に意思を宿して蓮を見つめ返した。
呼応するように細められる漆黒。
キョーコは微かに頷くと再び目を瞑り、深呼吸を一つすると、視線を真っ直ぐ前に向け話を再開する。

「私、親に捨てられたんです」

静かに語られるキョーコの生い立ち。

「近所の家に預けられたまま、とうとう迎えは来なくて。あぁ、私はいらない子なんだって、嫌でも気付かされたんです」

一息に言い切られた内容は、年端もいかない少女から語られるには、あまりにも痛々しい過去だった。
蓮は、キョーコと重ねたままの掌を自然と強く握る。
それに勇気付けられたのか、キョーコはまたゆっくりと話を続けた。

「でも、恨んでるわけじゃなくて。ただ、私は一人でも大丈夫って、生きていけるって、証明したかったんだと思います」

でも違った、と、キョーコは緩く首を振りながら、尚の言葉を思い出す。

「『親を見返したかったのか』って。言われて気付くなんて馬鹿ですけどね……コーンに会いたいのは本当、でも心のどこかで、その結果を利用しようとする気持ちもあったかもしれない。こんな打算的な人間の前に、現れてくれるはずもなかったのに」

一息に言い切ったソレ。
キョーコの、懺悔のような告白だった。                
蓮はどう思っただろう。
呆れられた?
幻滅された?
もう、一緒にいてくれない?
今のキョーコにとってはそれが一番怖かった。

「最上さん」

ビクリと肩を震わせ、緊張しながら蓮の言葉を待つ。

「はい......っ」

ところが、蓮の次の言葉は、想像とは全く違うものだった。

「お腹、減ってない?」
「えぇ!?……へ、減ってますけど」
「じゃあ、ご飯食べたいよね?」
「は、はい」

あまりにも話の流れが違い過ぎて、指摘をせずにはいられない程お腹が鳴ってしまったのかとキョーコは慌てるが、蓮は微笑みながら続ける。

「同じように、眠い時は眠りたい。欲しい物があれば買いたい。女の子なら可愛い服で着飾りたいと思うだろう?」
「……」
「学校でいい成績を残したい。お金持ちになりたい。頭を良くしたい。綺麗になりたい」

どこまでも優しい瞳が、キョーコを捕らえていた。

「妖精を喚び出したい。親に認められたい、見返したい」
「……っ」
「何が違う?何かをしたい、されたいと思うのは、人間の願望の一つだろう。それに対して負い目を感じる必要はないし、咎を受ける謂れもない」
「でも……」
「もっと言えば、私利私欲のない清廉潔白な人間でないと妖精を喚べない訳じゃない」
「そ、それは……そうかも」

誰、とは考えるまでもない。あの唯我独尊な俺様男ですら、当然のように妖精を召還していた。だから決して条件的に「心の綺麗な人間」が当てはまる訳ではないのだろう。

「そっか......」

ストンと、憑き物が落ちたようだった。
鬱屈した、キョーコ自身ではどうしようもないドロドロしたモノ。
蓮の言葉は、頑なだったそれを綺麗に霧散させてしまった。

「最上さん」
「?」
「今は、俺を見て」

これまで柔らかな物腰と笑顔を絶やさなかった蓮だが、突然の強い語気にキョーコは慌てて背筋を正して従った。
ジッと注がれるアツい漆黒の奥に潜む激情。

「……悔しいね。君の中に俺以外の人間がチラとでも紛れるだけで、どうしようもなく……妬ける。何もかも、消したくなる」
「つ、敦賀さん?」
「君が望んでくれれば、全て消してあげる。君を悲しませるもの、親も幼馴染も、学校の人間も、忘れさせてあげるよ」
「そんな、こと……」

夜の闇より濃密な、魔の本性なのか。
密やかな独占の欠片を覗かせた蓮の、甘美な誘惑。
これまでキョーコを悲しませてきた全てを、無かったことにしてくれるという。
負の感情を生む根本がいなくなれば、辛い事もないだろうと。


全部忘れたら、私の中から消えてしまえば、楽になる……?


「何なりと、お申し付けを?」

弧に描いた口元が艶やかに奏でる、命令の要求。
低く響く声は、魂まで揺さぶるようで、思考に靄がかかる。精神の弱い人間であれば、言われるがままに頷いてしまうかもしれない。
だがキョーコは、穏やかに微笑んで首を振った。

「……ううん、ダメです。全部、私の世界には必要なんです。私が私であるために。だからどうか、頑張れるよう、そばにいてくれますか?」

キョーコから出た二つ目の純粋なお願い。
ソレを断れるはずもなく、つられたように蓮も相好を崩して許諾する。

「勿論。喜んで」
「ありがとうございます」
「……帰ろうか」
「はい」

どちらからともなく繋がれた手から、じんわりとキョーコを包む温もりは広がり、満たしていった。








時刻は夜半過ぎ。
月が天宙に届く頃。


「ごめん…………」


蓮の腕に抱かれて、グッタリと意識を手放したキョーコがいた。




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