正しい召喚のススメ 6

朝方はダイブ涼しいというか、ちょっと肌寒かったくらいですおはようございます。
今日はやっと続きの更新に参りました。
本当はもっと早く出来たのに、何故か保存したはずの文章消えていたり。。
まぁ被害は大したことなかったんですが、修復しながら色々変更加えてたら予定より長くなったり。
そんな感じです。←

今月は新刊とクレパラ愛蔵版が出ますね!
うちは遅配地域なので入手はまでまだ時間がかかりますが楽しみですv

某様方のお祭り騒ぎに紛れながら、ヒッソリと続きどうぞー。







――――魂が奪われる。

とは、こういう事を言うのかもしれない。

誰もが目を奪われた。
その、跪いている男に。

『お呼びでしょうか、ご主人様』

低く、耳に心地良い声。静かに、けれど、耳元で囁かれているように、聞く事を拒否出来ない言葉が、この場にいる全員に告げられる。
どんな美辞麗句も、男の放つ艶美な力の前では意味を成さない。
漆黒の衣装を纏い、壇上で傅く男が、狂おしいまでの愛しさを湛え、煌めく虹彩で見詰める先はただ一人。

シャンと背筋を伸ばし佇む、小さく頼りなげな体。
一瞬で講堂内の全てを支配した男の、主たる少女。
ビー玉のような澄んだ瞳から、感情は伺い知れないが、その内心では何を思うか。


ただひたすらに……




狼狽えていた。




「えーーーー……と?敦賀さん?」
「何かな?」
「どうして、ここへ?」

予感はあった。
確かに、そんな気はしていた。けど、いざ実際に起こってしまうと、それはそれで慌てるしかなかった。
昨日と同じ方法、同じ結果。
妖精を召喚するはずが、またしても悪魔を喚び出してしまったこの状況。
そんなキョーコの狼狽を見透かしたように、蓮はニコリと微笑むと、流れるような動作で以て立ち上がる。

「俺達は我儘な生き物なんだよ、最上さん」

キョーコの質問には応えず、代わりに目眩がするような綺麗な笑顔で一歩 、また一歩近付く。
逃げ出したい衝動に駆られながら、キョーコの足は何故かこの場を動こうとしなかった。

「は……はいぃ」

かろうじて、悲鳴にも似た音が口から滑り出る。
危害は加えられないだろうと、漠然とした安心感とともに、今は泣きたいような恐怖がない交ぜになり、酷く情けない顔をしているに違いないとキョーコは他人事のように思った。
艶やかな笑みとともに、冷たく長い指がキョーコの頬に添えられ、 飛びかけた思考を強制的に引き戻される。

「……だから、ね?何よりも一番に必要とされたいんだ。でないと……」

蓮は意味ありげに言葉を切り、視線だけを周囲へ巡らせる。そうして再びキョーコの瞳を見据え、世間話をするようにサラリと告げた。

「寂しくて、暴れてしまうかもしれないよ?」

眩しい笑顔が突き刺さる。

片手で町を消せる敦賀さんが暴れるかも……?
良くない想像はあっという間にキョーコの頭に思い浮かべられ、そこではこの辺り一帯焼け野原になっていた。

「ごごご、ごめんなさっ」
「っていうのは冗談だけどね」

角度で言えば45度は曲がるだろう謝罪の礼の途中で、あっさり冗談だと抜かす男に文句の一つでも言ってやりたいと拳を握るのは悪いことだろうか。
キョーコがその「冗談」に対し抗議を発する前に、蓮は素早く行動に出る。

「とりあえず、向けられる悪意には対処していいかな」
「はい!?」

キョーコが蓮の言葉の意味を理解するより早く、紳士然とした悪魔は再び主の足下へ片膝をつき、その白く小さな左手の甲へ忠誠の口付けを落とした。

(ひゃあああぁぁぁ!?)

公衆の面前で、手にキスされる。キョーコにとっては羞恥プレイ以外の何でもなかった。
しかも。

「……ゃ……ぁ……」

熱い舌が僅かに触れるだけで、ゾクリと背筋に何かが駆け上がる。
くすぐったいような、違うような何かに翻弄され、思考が霞むように体の力が抜けていく。
時間にすればほんの僅か、気が付けば蓮の手は離れ、見上げる位置から黒い双眸に見つめられていた。

「……それで、俺は何をすれば良いのかな」
「ぅぇ?えー……。じ、実は、召喚の実習授業なので、出てきて頂いたら終わりというか……」
「そうなんだ?」
「はい。なので、出てきて早々申し訳ないのですが、お帰り頂いてよろしいでしょうか」

キョーコはどうにもぼんやりする頭を根性で動かして、何事も無かったかのように平静を装う。
そもそも、喚ぼうと思って喚んだ訳ではなかった事もあり、蓮を速やかに帰すべく言葉を選びながら、申し訳なさそうに頭を下げた。
これ以上長居をさせるのは、何かが危険だとキョーコの第六感が告げている。

「分かった。名残惜しいけど帰るよ」

案外アッサリと了承を貰えたことに、やや拍子抜けしながらホッと溜め息をついたキョーコ。

「そうそう。それと、コレ、返しに来たんだ」
「あ……」

差し出された手に自然に応じると、蓮から渡されたのはキョーコ自身の家の鍵だった。

「俺達には必要ないからね」
「そう……ですよね」

それもそうだろう。人外の者には、人の作った扉なんて意味を成さないのだから。
キョーコは、掌に乗せられた小さな鉄の塊の冷たさに、どうしてか泣きたくなった。

分かっていた。悪魔には必要の無い物だと。
ではなぜ、と聞かれると、明確な答えはキョーコの中にも形になっていなかった。
が、今この瞬間に理解する。

……自分への繋がりが、欲しかったからだ。

主従の契約だと言われた所で、そのまま姿をくらましてもおかしくはない、蓮への楔を。
小さな邂逅への種を。
しかし、それは返されてしまった。

「いらないですよね……」

あはは、とキョーコは自分の情けない部分を誤魔化そうと無理やり笑顔を繕う。

「最上さん」

すると蓮は、おもむろにキョーコの鍵を持った方の手に自らの手を重ねた。
ヒヤリとした体温を感じない大きな手なのに、何故だかほんのりと心が温かくなる。

「俺の鍵は、最上さん、君だからね」
「……?」

言葉の意味を図りかね、戸惑いながらキョーコは蓮を見上げると、どこまでも深い黒が全てを見透かすようにキョーコを捕えていた。

「あ、あの」
「君が望めば……喚んでくれれば、どこにいても俺は目の前に現れるよ」

そうすれば、キョーコへ繋がる扉が開かれるのだと、蓮はそう続ける。
優しく包み込むような蓮の言葉は、キョーコ中で燻っていた不安を魔法のように溶かしていった。

――頼っても良いんですか……?

「まあ、嫌って言われても離れるつもりはないし、どんな結界があろうともぶち壊して側にいるよ」

堂々とした不法侵入宣言、というか破壊宣言?に先程までとは違う一抹の不安がよぎる。

「そ、そうですか……」
「じゃあそろそろ、最上さんの勉強の邪魔になりそうだから帰るよ。……ずっと側にいて欲しいって言ってくれたら喜んでいるけど?」
「お、お帰り下さい!」
「承知しました」

からかうような問いかけに慌てて答えると、蓮はクスクス笑いながら恭しく一礼した。さらにキョーコの耳元へ唇を寄せ、そっと囁く。

「寄り道しないで帰っておいで」
「善処します」
「でないと寂しくて――」
「全速力で帰ります!」
「よろしい」

キョーコの返答に満足したのか、またしても楽しげに笑いながら、蓮は一歩下がって優雅に頭を下げた。

「最後に、我が主へささやかなる贈り物を」

そうしてパチンと指を鳴らすと、薄暗かった講堂内に、光の花弁がどこからともなく降り注ぐ。

「わぁ……」

他の生徒からも歓声が上がった。
見たこともない魔法に、誰もが魅せられる。
青にも赤にも黄色にも、幾重にも変化する幻想的な花のシャワーに、思わず感嘆の溜め息が零れた。
捕まえようとしても手の中で溶けるように消えてしまう、刹那の煌めき。
キョーコの目を楽しませるためだけの遊戯は、役目を終えると瞬きをする間に、まるで何もなかったかのように消えていく。

気付けば蓮の姿もキョーコの前から消え、残されたのは、仄かな気配と手の中の小さな鍵だけだった。





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