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沸点低下中につき

もうすっかり暖かくなってきましたね。
というか暑いくらいです!

日も長くなって扇風機絶賛稼働中ですが、久しぶりに短編を。

思いつきな馬鹿話なんですが、こういうのの方が楽に書けるんですよね。

キョーコは何も悪くないのに災難を被るっていう、なんとも可哀想なお話にw

本誌でも無駄なニコヤカやめれば良いのになー。←

ではどうぞー!










「最上さん……君の今夜の時間と身体、俺にくれないかな」

いつかのような、そんな紛らわしい言い回しで私の今日の予定は決まった。






きっとこんな台詞を敦賀さんに言われたら、普通の女の子は卒倒するんじゃないかしら。
他の人には意味深とも取れる発言も、私にとってはなんの事はない。
台本の読み合わせに付き合って欲しいとのことだった。

本来なら、敦賀さんは一人で台本を覚えるタイプなんだけど、今回は変更点がたくさんあるらしく、しかも撮影日は間近。
朝から晩まで、俳優業だけではない敦賀さんはモデルとしての仕事や取材も受けつつ、最近特に忙しかったようで、腰を据えて台本を覚え直すには時間があまりないそうだ。
そこで駆り出されたのが私。
ただ字を目で追うよりも、言葉に出した方がより身に付くのは勿論、私自身の演技の勉強にもなる。
もしかしたら、敦賀さんは後者を一番考えてくれたのかもしれない。

「わぁ……敦賀さんから強引に迫るんだ」

ペラリと紙を捲る音が響く敦賀さんの部屋。
新しい台本と、当然のように渡されたスペアキーが、そのまま信頼の証のようで擽ったかった。
予め流れを把握しておこうと読み始めた台本の内容は、敦賀さんがとうとう想いの丈を意中の女性に告白する所。
しかも結構な行動力。
これは相手の女優さん確実に惚れさせるなーなんて、他人事のように思ってしまう。
ちらりと時計を確認すれば、短い針が11に届きそうな頃合い。
夕飯はお弁当を食べるからと言われたけど、せめて少しくらいはと、温めればすぐ飲めるようなスープを用意しておいた。
また、パラリと紙を捲る。
そうこうしているうちに、玄関から解錠の音が聞こえてきた。
私はパタパタとそちらへ向かい、この部屋の主を出迎えたんだけど。

「お疲れ様です。おかえりなさい……って、敦賀さん……何だか濡れてませんか?」

服こそ着替えたのかそんな形跡はなかったものの、敦賀さんの艶やかな髪がしっとりと水気を含んでいるのが見て取れた。

「ただいま。撮影で雨のシーンがあってね」

私の姿を確認すると、極上の笑顔で事も無げにそう言った敦賀さん。ただ、私も女優の端くれをやらせてもらってる身なので「雨のシーン」がどういうものなのか分かっている。実は一般的な普通の雨だと、カメラにあまり映らない。そこで、こんなドラマの撮影では、通常の雨よりももっと強い「大雨」を降らせることが常だった。
結果役者さん達は結構なずぶ濡れになってしまう。

それが今の敦賀さんの状態なんだとしたら?

「大変、早く温かいお風呂に入ってください!風邪引いちゃいますよ!」
「あぁうん、そうさせてもらおうかな」
「もっと髪も乾かしてお帰りにならないと……」
「最上さんを待たせる時間の短縮になるんなら全然構わないんだけどな」

一瞬、ほんの一瞬。
私のために急いで帰って来た、みたいに聞こえて、顔に熱が昇りかける。

「つ、敦賀さん、とにかく体を温めて、それから台本は読みましょう、ね?」

慌てて敦賀さんをお風呂に追い立て、自分の動揺をひた隠した。

しっかりしろ、私。

いつからか簡単に外れかけるあの忌まわしい箱の鍵。私は深呼吸を数回繰り返すことで、心の平静を取り戻す。
それでも早くなった鼓動は簡単には収まってくれなかったけど、別の事に意識を向ける事で気付かないフリをした。

「そうだ。敦賀さんのドラマのDVDでも後学のために……」

敦賀さんの演技は本当に勉強になる。現場で見ていてもそうだけど、モニターごしに見ても引き込まれるように無心になれた。
広い部屋に似合う大きなテレビの電源を入れる。
ヴンと電子音が耳に入り、数瞬の後に黒い画面から賑やかなバラエティ番組が映し出される。
そんなに詳しくはないけど、どうやら実際にあった体験を芸能人が再現して「こんな事が起こるかも?」と疑似体験させるような内容らしい。

『それではVTRどうぞ~』

司会と見られるお笑い芸人さんがフリ、次いで字幕の説明とともにVTRが始まった。
曰く「俳優と付き合った一般人女性」の話らしい。

「出会いはクラブでナンパ……って、あれ。貴島さんだ」

番宣の関係だろう貴島さんが、今回の再現ドラマのお相手だという。

『良かったら、この後一緒に……』

一般女性役の女優さんをナンパする貴島さん。似合いすぎる。
本当にやってそうだから、笑えるんだか笑えないんだか。
テレビの中では、出会い編からデート編に映っていた。
通常起こりえない状況の「あるある」を再現していくようで、目立つ色が使われた説明には。

『デートは主に彼の家』

とあった。
うん、まぁそうよね。バレちゃ終わりだもんね。
ドラマの中では人の良い笑顔を浮かべた貴島さんと女優さんがいい雰囲気だった。
物語を進めながら次のあるある。

『彼の出演作品を一緒に鑑賞する』

演技の感想を求められるらしい。素人にそんな無茶ぶりなと思っても、実際にやってる人がいるんだろう。
困惑した顔の女優さんと、飄々とした貴島さん。いかにも手慣れている風な演技は流石だったけど。
そういえば、と、私は持っていたDVDのリモコンに一瞬だけ目を向ける。

「…………今日は台本の読み合わせだし、DVDじゃなくて台本読もう」

そうだそうだと一人で頷いて、台本を手に持ち雑音になるテレビを消そうとしたんだけど、容赦なく物語は進んでいた。

『ドラマの台本の読み合わせをする』

「はい!?」

なんだろう。凄く似た状況を知っている気がする。

『彼のためにご飯を作る』

あれ……?

私は無言で立ち尽くしていた。

『シャワー後の無防備な姿にトキメク』

画面の中ではシャワー後らしい貴島さんが上半身裸で引き締まった身体を披露してたけど、私にはどうでもよくて。
どうやら「俳優と付き合った一般人女性」のルーチンが自分にもそこはかとなく当てはまるような気がしてならなかった。
いえいえいえ、そんなことないそんなことない。まるで私が敦賀さんとゴニョゴニョなんてそんなことない。
これは一般女性だけど、私は一応曲がりなりにも業界人だしって、そこ問題点じゃないかも。
必死になって自分との符号を打ち消そうと頭を振っていたから、近付く気配に全く気付かなかった。

「最上さん?珍しい、何見て……」

ぐるぐると思考渦巻く中、お風呂から出て来た敦賀さんに声をかけられる。
反射的に声のした方へ振り向くと、湯上がりでラフな夜着姿の敦賀さんがいた。
なんでも着こなす敦賀さんは、何を着ても様になるというか、普段のカッチリした衣装よりもありのままの魅力が隠されることなく押し出されているようで 。
要するに、緩やかに空いた襟元から鎖骨が覗いたりして、色っぽさが何割も増幅されていた。

シャワー後の無防備な姿……

先程右から左へ抜けたはずの言葉が思いがけず甦る。

ボフン!

きっとそんな音を立てて、私は頭から熱が吹き出すのが分かった。

「つつつ、敦賀さんっ、お早いお戻りで……」

挙動不審極まりないとはこのことかと自分で突っ込みながら、なんとか笑顔を作る。

「そう……」

一言、顔色の窺えない敦賀さんがそう発した。
その声は、私の背中に寒気を走らせるのに十分で。
ただ、敦賀さんの様子が何故だか急降下しているのを教えてくれた。

な、なんでー!?

すうっと目を細めて、その奥に仄暗さを湛えながら、魔王降臨数秒前の敦賀さんは静かに呟く。

「貴島くんの裸でそんなに赤くなってたんだ……」
「へ?」

貴島さんの裸?
私はちらりとテレビを見て、そうして敦賀さんが何か誤解してるらしいと思い至った。
ここで、違いますと声を大にして叫べれば良かったけど、だからと言って敦賀さんの湯上がり姿に赤くなっちゃったんです、だなんてもっと言えなかった。

「俺の時には何の反応も無かったのに……」
「あ、あの……」

小さく感情の籠らない言葉と共に、敦賀さんがテレビを消す。

「……最上さん。読み合わせは辞めよう。代わりに……」

一歩、二歩と近付く敦賀さんから目を逸らせず、そして足も床に縫い付けられたように動かなかった。
きっと蛇に睨まれるどころか、半分くらいは食べられてる蛙ってこんな気持ち。
いつもなら発動してそうなキュラリスマイルもなく、愉悦を含んだ笑顔でゆっくりと断罪の言葉を告げる。

「本気の演技、しようか?」

私の胸元でいつのまにか抱き締めていた台本に、敦賀さんの長い指がトンと触れた。

こ、これを本気でって……?

『敦賀さんから強引に迫るんだー』

少し前の自分の言葉が反芻される。

「ままま待ってくださ……」

ほとんど反射的に後ろへ下がろうとした私の体は、敦賀さんに有無を言わさず抱き締められ、それが叶うことはなかった。

『逃がさないよ?』

蠱惑的な響きが、私の耳元から全身を支配する。

それは、台本の1ページ目の台詞だった。








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