熱孕み夢現 (後編)

ご無沙汰しております!

生きてます!(今現在風邪引いてますが)

なんだか昨年末から地に足着かないようなフワフワした状態が続いてまして。
余裕がないというか体力がないというか。
もう少ししたら落ち着くかなーという所です。

そんな中、少しずつお話を書き進めてはいたんですが、当初の予定と着地点が変わりました。
しかも書けば書く程長くなる(前編の倍の長さ;)って言うとんだ事態になりましたが、これはこれで良いかもと思っております。
やっぱり楽しくが良いですね!

あ、拍手のお返事は近日中に必ずしますので!

では、続きよりどうぞ。


















敦賀さんが起きたら謝らなくちゃ。
あの事は忘れてくださいって。







肌触りの良さと温もりが、目覚めを邪魔してる。
寝起きの悪い方ではないのに、何故だか目を覚ましちゃいけない気がする。
ずっとこのまま、悪い夢が続けば良いのに。

「ん……」

不思議な違和感で、重たい瞼をなんとか開ける。
ぼんやりとした視界に合わせるように回らない思考。
いるはずのない人が目の前にいる気がするのは、夢の続き……?

……じゃない!?

私は寝起きながら精一杯の力でガバッと跳ね起きる。あまりに突然の体勢移動で頭がクラクラするけど、そんなことを言っている場合じゃない。目の前の麗人、敦賀さんは、どうしてか見たことのないくらい落ち込んでいるように見えた。
俯いていたかと思えばチラリとこちらを伺い、そのまま気まずそうに朝の挨拶をしてくれる。

「おはよう……」
「お、おはようございます……」
「…………」
「…………」

続く沈黙が痛い。

「あの……」
「ごめん」

私が耐えられなくなって口を開こうとした時、敦賀さんも同じだったのか申し訳なさそうに謝罪の言葉を向けられた。
でも、何に対して?
不測の事態とはいえ、同じベッドで寝入ってしまうなんてバカな真似をしたのは私の方なのに。
その疑問が顔に出ていたのか、敦賀さんは続ける。

「ごめん……俺、何かした……?」
「……はい?」
「その……どうして最上さんがいるか、全然覚えてなくて……」
「覚えてない……? 全く……?」
「そう……なんだ……ごめん」

敦賀さんにしては歯切れが悪く、更にもう一度謝ってくれた。普段からは考えられない程しょんぼりとして、大の男が、それもかなり大柄な部類の敦賀さんがシュンとしていて、失礼かもしれないけれどなんだか可愛く見える。

「……本当に、覚えてないんですか?」
「うん……夢のような微かな記憶はあるんだけどね」

私は少し慎重になりながら、ゆっくりと説明することにした。

「敦賀さん。昨日、敦賀さんはお熱があったんです」
「熱?」
「はい。ありえない程高熱なのに、お仕事をされてたんですよ」

私の言葉を聞いた敦賀さんは、何かを考え込むように手を軽く握り口元へ持っていく。夢のような記憶はあると言っていたので、思い当たる節でもあるのかもしれない。
それにしても、ほとんど意識もないままで仕事をこなすなんてどんな武勇伝だろう。敦賀さんの半分は仕事で出来てるんだわなんてバカなことを考えていると、思考を整理した敦賀さんが真っ直ぐにこちらを見ていた。

「俺が熱を押して仕事をしていたのは分かったけど、最上さんはどうして?」

今の情報だけでは、私がここにいる説明にはならない。敦賀さんも暗にそれを聞いている。

「順を追ってお話しますね」



*******



「俺の、思い通りになって……?」

どこか様子の可笑しかった敦賀さんの、有り得ない言動。力では敵うはずもなく、私は落とした荷物を拾うことも出来ずに固まっていた。
一緒に歩いていた光さん達の驚いた顔に、言い訳めいた何かを伝えたかったけれど、それが言葉になることはなく。私だって同じように驚いてるんですと心で思った時、じわりと感じた敦賀さんの異変の正体を知る。

(敦賀さん……凄く熱い……!)

抱き付かれた直後は分からなかったけど、お互いの服の壁を侵食してその熱は私にまで簡単に届いた。
異常なまでの体温の高さと、触れているからこそ分かる小さな震え。
どうしよう、どうしたら……。
とにかく、社さんに連絡して休ませるなり病院に連れて行くなりしないと。

「京子ちゃん……あの……」

困惑したままの光さんが、私の落とした荷物を拾ってくれた。そうだった、敦賀さんの一大事に危うく忘れる所だった。
ブリッジロックの3名が、どうしていいか分からないようでこちらを見て立ち尽くす。
でも、「敦賀さんが高熱なんです」なんて言って助けを求める訳にはいかない。だって、敦賀さんがこんな所に居るという事は、仕事をしていたって事なんだと思うから。
それを不用意に騒ぎ立てて、敦賀さんの仕事に支障は出せない。
なら、私に出来ることは、光さん達に気付かれず社さんに敦賀さんを託すこと。

「つ、敦賀さんったら、演技のご指導は嬉しいですけど、突然すぎますよ」

これで、周りからは「後輩への演技指導中」だと思われるはず。我ながら無理があるとボキャブラリーの無さを嘆きたくもなったけど、そんなことを気にしている場合じゃない。
事実、ブリッジロックの3名は「そうだったのかー」と納得しているように見える。なんだか、そう思い込みたい気持ちが含まれているような?
その直後、救世主が現れる。

「蓮……!?」
「や、社さぁぁん!」

まさに溺れる者の藁としてすがるように、現れた社さんに助けを求める。

「こらこら、公衆の面前でナニしてんだ……」

社さんが慌てて敦賀さんを私から剥がしてくれた。そんな社さんも、敦賀さんの異変にはすぐに気付いたようで、私に目配せをする。

「ごめんねキョーコちゃん。こいつにはよく言って聞かすから、仕事の続きしておいで?」
「はい……」
「君らも、驚かせて悪かったね」
「い、いえ!」
「ほら、蓮行くぞ」

社さんはブリッジロックの3人にも一声かけ、どうしてか不機嫌そうな敦賀さんを連れて行ってしまった。
私はとりあえず残された仕事を片付け、手伝ってくれた光さん達とも早々に分かれることに。
もちろん、敦賀さんの様子を社さんに確認するためだったんだけど、着替えを済ませた所で着信があった。

「はい、最上です」
『あ、もしもしキョーコちゃん? 今、大丈夫?』
「大丈夫ですよ。敦賀さんの具合はどうですか?」
『うーん。かなり熱が高いみたいだね。さっきまで仕事出来てたのが嘘みたいだよ』
「そう……ですか」
『悪いけどキョーコちゃん。蓮の面倒みてやってくれないかな?』
「はい、それは構いませんが」
『俺は明日のスケジュールを調整してみるからさ。オフは無理でも、遅い時間に回せるようかけあうよ』
「分かりました。じゃあこの後……」

電話を切って、すぐに待ち合わせの場所まで行き、社さんの手配してくれたタクシーに乗る。
そうして私はフラフラの敦賀さんをお医者さんに看せ、敦賀さんのマンションに無事連れて帰る事が出来た。
とりあえず堅苦しいスーツからパジャマに着替えてもらい、いつか買った氷嚢をセットして準備OK。さぁ後は寝てもらうだけだとベッドへ促したまでは良かったんだけど。

敦賀さんがオカシイ。

いえ、そりゃあこんな高熱ですから、おかしくない方がオカシイけど。

「あ、あの、敦賀さん?」
「……なに?」
「もうお休みになられた方が良いですよ」
「うん」
「手、離しますよ?」
「…………」

敦賀さんが私の腕を掴んだまま、離してくれない。
離れようとすると、無言で捨てられた子犬のような目をしてくる。

ず、ずるい……!

そうされると弱いって分かっててやってるのかしら敦賀さん!?

「あの……社さんに、敦賀さんの様子をご報告しなくちゃいけないので、電話してきますね。だから、敦賀さんは休んでてください?」

どうにか敦賀さんを宥めて、腕の拘束を解いてもらった。

「すぐ、戻ってきますから」
「ん……」

泣いた子を落ち着かせるように優しく告げ、部屋を出る。
なるべく話し声が聞こえないよう部屋から離れて、携帯電話を取り出すと、目的の相手の電話帳へと操作を進め発信。

「お疲れ様です、最上です。今よろしいですか?」
『お疲れ様。大丈夫だよ。ごめんねキョーコちゃん、こんな事頼んじゃって』
「いいえ、少しでもお役に立てたのなら嬉しいです」
『このお礼は今度蓮に必ずさせるからさ。それで、蓮の状態はどう?』
「あ、はい。今はお薬が効いてるのか落ち着いてきました。まだ熱は高いですし、ぼんやりとはしてますが」
『そうか……。明日のスケジュールの調整はついたから、それまでにいくらか回復してくれたら良いんだけど』
「とにかく今は休むのが一番です。後は、汗でもかいてくれたら一気に熱も下がるはずなんですが……」
『うん、分かった。ありがとうキョーコちゃん。……で、お願いばかりで申し訳ないんだけど、出来ればこのまま蓮についてやって欲しいんだ。キョーコちゃんとなら食事の心配もないし、蓮も喜ぶだろうし』
「喜んでいただけるかは分かりませんが、ご飯ならちゃんと食べさせますよ」

電話口であるのに、つい癖で胸をドンとたたいてしまった私の気配を察したのか、社さんは朗らかに笑ってくれた。

『あはは、頼もしいね。じゃあ、キョーコちゃんもゆっくり休むんだよ?』
「はい、ありがとうございます。では、失礼しますね」

パコ。
電話にしか使う用途のない携帯電話を閉じて、私は一息つく。
報告は終わったし、とりあえず敦賀さんの様子を見に行こうと踵を返すと、部屋の入り口にもたれ掛かるようにして敦賀さんが立っていた。

「敦賀さん!? ちゃんと横になってないとダメですよ!」

私は慌てて駆け寄って、敦賀さんをベッドに促す。

「ずいぶん……楽しそうな声が聞こえたから」

そう言った敦賀さんの声は先程より多少かすれていた。そうだ水分補給させなきゃとひとまずベッドに座らせた私は、キッチンから水を持ってこようとしたんだけど。

「あ、あの?」

また先程と同じように腕を掴まれてしまった。「お水を……」と言いかけた私の言葉は音になることなく、フラフラなはずの敦賀さんに引っ張られて、面白い程簡単に体がベッドに転がる。

「わぷっ!?」

受け身も出来ず、顔から突っ伏した私はなんてマヌケだろう。
一体何を、と抗議するべく体を反転させると、私の顔の横に敦賀さんの両手が置かれ、起き上がれないよう体を挟むように足が置かれていた。
所謂、押し倒されている状態。

「つつつつつるがさん!?」

何を言えば良いのか、どういう状況なのか、全く分からない私に、敦賀さんはゆっくり口を開く。

「汗……かけばいいんだろう?」
「へ?」

ポツリと、静かにそう言った敦賀さん。

「俺の熱、冷まして?」

思考の停止した私には、時間が必要だった。
状況把握の材料を一つ一つ浮かべなければ、どうにも頭が働かない。

「ま、待ってくださぁーーーい!」

私は必死になって敦賀さんの体を押し返す。敵うはずもないけれど、それでも意思表示はしなければいけない。

「敦賀さん……やめてくださいっ……!」

多分、違う。違うと思いたい。何となくしか分からない、でも少しは知ってる。そんな事態に陥ろうとしてる!?

「これ以上動いたら……体、壊れちゃいますよ!」

折角小康状態になったのに、これではぶり返してしまう。

「熱いんだ……どうしようもなく」
「でも……こんなの、ダメです……!」

熱で潤んだ瞳、かすれた声、緩めの寝間着から覗く胸元。
その全てから凄まじい色香が放たれているようで、私は一人ただ慌てることしか出来ない。

「どうして?」

ふと、耳元で敦賀さんの低音が響く。その直後。

ちゅ。

と耳朶を軽く吸われた。

「ひぁっ!?」

そのどうにもならない感覚は耳から全身に行き渡り、電気が走ったように体が強張る。
どうしよう。
どうしよう。
挫けそうな心をなんとか奮い立たせ、必死に敦賀さんに言い募る私。

「こ、こんなの……敦賀さんの本当に好きな人とじゃなきゃダメですよ……」

きっと、高熱のせいで誰かと間違ってる。
人は弱ると人肌恋しくなるって言うし。
でも、敦賀さんにとって、それは私じゃない。
そう思ってたのに。

「好きだよ」
「……え?」

敦賀さん?

「最上さんが好きだよ」

文字通り熱を帯びた敦賀さんの瞳は真剣そのもので、思わず私は息を飲んだ。
強い、強い意思は、私の動きと思考を奪い去る。

「好きなんだ」

一切の否定を受け付けない、嘘偽りのない想いが伝わってくる。

本当に……?
それは敦賀さんの本当の気持ちですか?

ジッと間近で見詰められ、私は魂を抜かれるようにスルリと言葉を発していた。
奥底にしまったはずの、忘れようとした感情。

「わ、たし……も……好き……です……」

自分で放った言葉が耳に届いた瞬間、私は我に返って一気に頬が熱くなるのを感じた。
何を言ってるんだろう!?
敦賀さんを恐る恐る見上げると、驚いたように目を見開いて固まっている。

「あ、あの、今のは!」
「ほんと……?」

『無かった事にしてください』という言葉は、敦賀さんの言葉で遮られた。

「嬉しい、な……」

誰もが赤面しそうな神々しい笑顔をふわりと浮かべ、そして……。

ドサ。

「へ?」

ゆっくり敦賀さんの顔が近付いてきたかと思ったら、そのまま私の上に倒れてしまった。

「敦賀さん??」

すーすーと寝息をたてて、まだ熱は高いながらも安心しきったように眠りについている。

「寝ちゃった……」

私は盛大に溜め息を吐くしかなかった。
今頃になって、自分の異常な心臓の早さと体の震えが分かる。
落ち着け私。
ひとまず、この無自覚プレイボーイさんが完全に寝入ってからベッドを降りよう。



*******



なーんてことがあったんだけど。

正直に言えない……。
敦賀さんにとっても知らない方が良い事だってある。
アレは、熱に浮かされていた故の世迷い言なんだから。
私は仕方なく、事実を端折って敦賀さんに伝えることにした。

「敦賀さんの異変に気付いた社さんに看病を頼まれたんです。私も仕事でたまたまその場に居合わせましたので」
「そうなんだ。でも、その……なんで一緒に寝て?」
「それは!えーと……敦賀さん寝ぼけてたみたいで、私の腕を掴んだまま離してくださらなかったんですよ」

少しだけ脚色。嘘はついてないものね。
すると、たちまち敦賀さんは申し訳なさそうに頭を下げる。

「ご、ごめん!そうだったのか」
「こちらこそすみません。本当は隙をみて抜け出すはずが、そのまま一緒に寝ちゃったみたいで」
「いや、迷惑かけたのは俺なんだから、謝るのは俺のほうだよ」

そうして「ごめん」「すみません」を何度か応酬した後、私は念のためもう一度確認することにした。

「あの、ところで。本当に昨夜のこと、覚えてないですよね?」
「覚えてない……けど、やけに念を押すね」
「いいえ!そんなことないですよ!? えぇ、もうスッキリ忘れていただいた方が良いです!」
「……そこまで言われると思い出したくなるな」
「そそそんなことより!朝食、準備するのでしっかり食べて下さいねっ。お薬飲まないといけませんから」

余計な事を言って昨夜の事を思い出されまいと、慌てて朝食の話題にすりかえる。
ところが、敦賀さんはそんな私の動揺を見抜いているかのように人の悪い笑みを浮かべ、首を傾げた。

「ふーん……もしかして最上さん、告白でもしてくれたとか?」

なんてことを仰るんでしょうこの人は……!

「違います!むしろ敦賀さんが!」
「お、俺が?」

私は半分泣きそうになりながら、もう言ってしまえと白状する。

「敦賀さんが、私を好きだなんて寝ぼけたこと仰ったんです!」
「え…………」
「いくら人恋しいからって、聞く人が聞けばとんだ誤解を生みますよ!?」

私の言葉を聞いた敦賀さんは、深く項垂れて頭を抱えた。
酷く落ち込んでいるようにみえて、思わずフォローをする。

「だ、大丈夫ですからね?誤解なんてしてませんから、安心してください」
「それはそれで困るんだけどな」
「?」
「えーと……何て言えばいいか、その、ごめん」

敦賀さんは謝ると、顔を上げてしっかりと私に向き直り口を開いた。

「もう一回言っていいかな」
「何をですか?」
「最上さんが好きだって」

私は昨日から何度目かのフリーズを体験する。

「え?」
「最上さんが好きなんだ」

昨夜と同じ台詞を、状況は違えど、同じ人から同じ場所で聞くなんて。

「告白した記憶がないなんて、あまりにも情けないんだけどね。俺の与り知らない所で、冗談や遊びだと思われたくなかったんだ」

敦賀さんは、あははと力なく笑うと、ピキリと固まっている私に向かっていつも通りの笑顔をくれる。

「返事は、言いたくなければ言わなくていいから」

私の心の傷を知っているから、恋愛に臆病な私に、逃げ道を作ってくれた敦賀さん。
でも、その優しい眼差しに、言葉に、逃げるのは卑怯だともう一人の私が告げる。
ぎゅっと服を握りしめ、震えそうな体を押さえつけ、そして俯きながら応える。

「私は、一生恋なんてしないって、ずっと言ってました」
「うん」
「でも、それを……忘れそうになってる……バカな女なんですよ?」
「それって……」
「二度と無いと思ってたのに……敦賀さんのせいで、うっかり思い出しちゃったんです。誰かを好きになる気持ち。……責任、取ってくれますか?」

一世一代の、告白返し。
恥ずかしすぎて敦賀さんの顔を見れずにいると、ギシリとベッドが沈んだ気配がして、次の瞬間には敦賀さんの香りに包まれていた。

「喜んで」

そう言って、敦賀さんは私を思いっきり抱き締めてくれる。
ポフリと二人で倒れ込んだベッドには、クスクスと楽しそうな笑い声が溢れ、柔らかい温もりと幸せが満ちていた。





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