落とし穴 4


あの日は雑誌の取材だった。






カップルが好んで選びそうなレストラン。
閉店後にインタビューで使わせてもらうからと押さえられていたが、思いのほか前の仕事が順調に終わり随分早い到着となった。
何か小腹に入れようと店内に入り、カウンターに座る。
社さんがしつこく言うので、一応メガネくらいは掛けた。流石に店内で帽子まで被ってたんじゃ逆に目立つだろう。
まぁ、各席を見てもお互いがお互いの相手しか見ていないのだからそこまで警戒する必要もないのかもしれない。
同じことを社さんも思ったんだろう。キョロ・・・と軽く辺りを見回して一つ溜息をつく。いつも思うが、この危機管理能力と索敵(?)能力で俺は大分助けられている。

「あ・・・あの娘・・・」

サーチ中だった社さんがふと呟いた。

「どうしたんです?」
「いや、あの娘。可愛いなーと思って」
「珍しいですね、社さんがそんなこと言うなんて」

この業界、綺麗な女優やモデルなど、人から賞賛を浴びる女性を数多く一緒に見て来たはずだ。そんな社さんの目に留まるなんてどんな娘だろう。視線の先を追う。

「なんかフワフワしてて女の子~って感じだろ。でも存在感あるっていうか・・・あんなに可愛いのにスカウトされてないのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ・・・でも一緒にいるの確かタレントの・・・誰だったかなー。そんな奴と一緒ってことは、やっぱり芸能関係なのかな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「俺も付き合うならあんな娘が良いなー・・・って蓮?」
「・・・・・・・・・・・・・・・社さん・・・・・ああいうタイプが良いんですか・・・・・?」

なるべく、顔と声は「敦賀蓮」でいようと努力はした。
でも社さんの反応を見ると失敗したようだった。

「ひぇ!!!????ななななんだよ!?お前にはキョーコちゃんがいるんだから、俺だって普通~に可愛い娘は可愛いって言うくらい・・・・」
「お待たせしました。ご注文の品です」

タイミングよく料理が運ばれてきた。例にもれず、俺も社さんと同じものにしたので提供時間は同じ。三種類の肉が使われ、サラダ風に盛り付けされている。栄養価の程はしれないが、ビタミンとタンパク質は摂れそうだ。俺の食への無頓着加減を知っている社さんが考慮して注文してくれたんだろう。

「と、とりあえず食おう。な?」

だが、今の俺の意識は目の前の料理ではなく、少し離れた席にいる・・・最上さんにあった。
男の方は座っている位置の関係で顔は見えなかった。社さん曰くタレントらしいが、俺の記憶の中からは一致する人物が出てこない。

一口、料理を口に運ぶ。
よくよく考えたら、プライベートであんな変装紛いの恰好はしないだろう。
何かの企画かロケか・・・その辺りが妥当か。
それに彼女はラブミー部員だぞ?そんな簡単に色恋沙汰に発展するとは思えない。
でなければ、俺もこんな苦労はしていない。
もう一口、味もよく分からないまま義務的に腕を動かす。
その時、彼女のソプラノがざわめきの間からすり抜けて俺に届いた。
楽しそうな声音。
自然、目はそちらを向いてしまう。
少し赤らめた・・・はにかんだ笑顔。
俺が欲してやまない最上さんの心の表情。
ツキンとどこかが痛んだ。
その男が・・・そんな顔させてるのか?

「蓮・・・?」

社さんが訝しげに話しかけてきた。それに応えようとするも、喉がカラカラで声が出ないのに驚いた。
飲みたくもなかったが、水を流しこんで潤してやる。
そこでまた耳に飛び込んでくる最上さんの声。

「はい、アーン」


グラス一つで済んだだけ良かった。



俺は安心したかったのかもしれない。
恋愛なんて障害でしかないと、ハッキリ言い切る彼女を知っているから・・・この間のことは仕事で、プライベートの感情はないと・・・最上さんに否定してほしかった。

―――あんな、愛おしげな色を映していたのに?

―――だから早く俺だけのものにしておけば・・・

愚かな自分が次々と溢れてくるのを敦賀蓮の仮面で押さえ、ラブミー部の部室前に立つ。
相変わらず大きな独り言で、自分の世界に入っているようだった。
この扉一枚隔てた向こうに最上さんがいるというだけで逸る気持ち。
ノックを数回。
・・・・・・。
反応がない。
聞こえてないのか?
ゆっくりドアノブを回すと、抵抗なく中へ招かれてしまった。
タイミングが良かったのか悪かったのか、彼女の囁くような呟きを聞く。

「児島さんを・・・好きそうな顔で・・・?」

続いて、俺には関係ないと慌てて否定する。

ナニガ?

一歩進むごとに、今まで繕ってきた偽物の俺が剥がれていく気がした。
少し怯えの入った彼女に詰め寄る俺はどんな顔をしているだろう。

警鐘が遠くで響く。
大事に大事に守っていきたい俺と。
壊してでも手に入れたいと思う俺と。
一体どっちが本物の気持ちか。



彼女の退室を背中で感じた時には、もう分からなくなっていた。



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